朱喜哲さん×三宅香帆さんスペシャルトーク(4)書店の可能性

令和8年4月に発行した「ほんのわミニ」。

「本のまち八戸ブックフェス2025」で開催した哲学者・朱喜哲さんと文芸評論家の三宅香帆さんによるスペシャルトークイベント「本と読書と書店〜私と世界をつなぐもの〜」の特別ダイジェスト版を誌面に掲載しました。

私的なものと公共的なもの、そしてそれをつなぐ本や書店の役割について、さまざまな角度からお話ししていただきました。

ここではお二人の対談完全版を、7回の連載記事としてご紹介していきます。

 

■スペシャルトークイベント
本と読書と書店〜私と世界をつなぐもの〜

  1. 本と読書の意味
  2. 私的なものと公共的なもの
  3. 書店という場所
  4. 書店の可能性
  5. 書くこと・文体・スタイル
  6. 匿名性と書店の未来
  7. 質疑応答

 


書店の可能性

 

三宅 香帆さん(以下三宅):書店って今後どうあるべきか、どうなっていくと思いますかとか、たまに私は聞かれるのですけれど…。例えば今は独立系書店が増えて、店主さんとコミュニケーションが取れるような形の書店が増えていますよね。あるいは、読書会みたいな、コミュニティのひとつの、人が集まる場所としての書店というのもある。それこそバザール的な、いろんな人が集まれる公民館みたいな意味での書店というのもあり得る気がするんですけど。でも、人が喋らなくていい場所、孤独になれる場所としての書店みたいなものの可能性もたくさんある。自分はやっぱりそれにすごく助けられてきたなと思うんですよね。

 

朱 喜哲さん(以下朱):僕も独立系書店のような店主の顔が見えるお店も増えてほしいという気持ちもありますが、同時にやはり匿名性があるような規模の書店も好きだなっていう想いもあります。

八戸ブックセンターが面白いなと思うところが、ある種いいとこ取りを目指していらっしゃる気がして、みんなで読書会ができるスペースとかがある一方で、カプセルみたいな本の塔があって、ハンモックもありますよね。

孤独と向き合えるための本というものはちゃんと維持しつつも、本を介して読書会やイベントで人とつながることもできるんだよ、というか。そのバランスはすごくよいものがある気がするので、いろんな方に視察に来ていただきたいと思います。

 

三宅:本当にそうですよね。図書館や図書室が、あんまりしゃべっちゃいけないみたいに言われているのって何でだろうと思っていましたけれども、一方で、そういうものに救われる瞬間が確かにある。

 

朱:みんながしゃべっていると、自分の内声が聞こえなくなりますからね。

その関連で、私が三宅さんの本で好きなのは、「本を通じて自分の声を獲得する」というモチーフがずっとあるところで。今回の選書の中でも、三宅さんの『娘が母を殺すには?』という、ちょっと物騒なタイトルの本を選んでみました。

まさに本ってこういう物騒なことが書けるものなんだというのが大事なポイントで、このことをパブリックスピーチとしてその辺でしゃべっていたら、ちょっと大丈夫かな?って感じかもしれないけれど(笑)、本を通じてなら差し出せる。

少しだけ私がこの本の断片的な紹介をすると、三宅さんには書き手としていろいろなモチベーションがおありだと思うんですが、その一つに、今まだ社会にちゃんとない、日本語の中でちゃんと表現されていない言葉遣いを作るんだというのがあるのではないかと思っています。この本はそのモチベーションが体現されている本ではないかと。つまり「父殺し」という言葉はあるのに、なんで「娘」による「母殺し」っていう言葉がないんだ、と。

様々なフィクションにそれは既に描かれているのですが、娘による母殺し、娘が母からどう心理的に独立するのか、距離をとっていくのかというモチーフから様々な作品を読み解いていく本なんですよね。

僕もこの本自体に共鳴するところがあって、実はこれはあまり言ったことないんですけども、僕自身は、母親が日本語のネイティブスピーカーで、父は韓国語のネイティブスピーカーなんですね。家庭の中では基本的に日本語で育ったからこそ、自分にとって言葉的なものってほぼ母親由来というイメージがあります。

だから自分は「息子」ではあるんだけど、この本で描かれている母娘関係には、シンパシーを持つところもあって。

だから自分にとって、ある種のバイブルとして繰り返し読んでいた本の一つが、よしながふみ先生の『愛すべき娘たち』なんですよね。

 

三宅:この『娘が母を殺すには?』の中でも紹介しています。


 

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