朱喜哲さん×三宅香帆さんスペシャルトーク(3)書店という場所

令和8年4月に発行した「ほんのわミニ」。

「本のまち八戸ブックフェス2025」で開催した哲学者・朱喜哲さんと文芸評論家の三宅香帆さんによるスペシャルトークイベント「本と読書と書店〜私と世界をつなぐもの〜」の特別ダイジェスト版を誌面に掲載しました。

私的なものと公共的なもの、そしてそれをつなぐ本や書店の役割について、さまざまな角度からお話ししていただきました。

ここではお二人の対談完全版を、7回の連載記事としてご紹介していきます。

 

■スペシャルトークイベント
本と読書と書店〜私と世界をつなぐもの〜

  1. 本と読書の意味
  2. 私的なものと公共的なもの
  3. 書店という場所
  4. 書店の可能性
  5. 書くこと・文体・スタイル
  6. 匿名性と書店の未来
  7. 質疑応答

 


書店という場所


朱 喜哲さん(以下朱):この文脈で、書店について考えると、書店ってすごく不思議な「お店」だと思うんですよ。

だって、「いらっしゃいませ!」とかあまり言わないじゃないですか。あるいは「それきっとお似合いになりますよ」とか、接客もないですよね。

 

三宅 香帆さん(以下三宅):嫌ですよね、「その本、お似合いになりますよ~」とか(笑)

 

朱:接客が特殊な店だと思うんです。これって何に由来するのか考えてみたんですけれど、売り物の「本」というものがまさに「公刊」されている、公共性が高いものじゃないですか。

本ってそもそも趣味的なものであるんだけれども、同時に公共性があるというか。だから本に語らせるし、書棚に語らせるし。

いまは飲食店をはじめ、いろんな店でみんなインスタにあげるために「映える」写真を撮るじゃないですか。本屋だけが多分、基本的にスマホを取り出さないお店なんじゃないかと思います。

これもまた書店の面白さとして大事な点がある気がする。

 

三宅:それゆえの難しさも私は感じていて。スマホを取り出さない、本屋を宣伝する機会がないからこそ、本屋から人が減っている側面もありますよね。

私も学生時代に小さい書店でアルバイトをしていたんです。お客さんと顔見知りになって、でも、話し過ぎると相手も困るし、私も確かに書店員さんに話しかけられたくはないなと。それって書店で本を選ぶということが、店員さんに認知されたくないぐらい私的なものであるからなんですね。

本自体が語るものでもあるから、書店にはポップがあれば十分だなと思っています。そのあたりが確かに他のお店とは違った側面がありますよね。

 

朱:だから本屋さんの接客って、棚作りでほぼ終わっている気がするんですね。こんな書棚を作りました、こんなふうに入れ替えましたということが一番の接客で、そこにそれ以上書店員さんの顔が見える必要がないところがあって。

もちろん名物書店員さんとか、今増えている独立系書店さんとかで、その人の人間的な魅力とかカフェ併設とか、今までと違う新しい魅力もあると思うんですけど、それは狭義の「本を売る場所」としての書店のものではない魅力なのかなと思いました。

 

三宅:そう思います。喫茶店的なものに近づいていきますよね。それはそれですごく素敵だと思うんですけれども、本という商品が、ある意味すごく思想を表しすぎる。

 

朱:これは大事な点ですよね。今、様々な買い物情報がデータ化されているけども、やはり買っている本の履歴が個人に紐づき過ぎちゃうデータって、怖いと思うんですよ。

思想傾向とかいろいろなものから類推できちゃうし、買い物データの中でも、一番センシティブなもののひとつだと思うので。

とは言え、やっぱり書店員さんの顔が全く見えない本屋も面白くないんですよね。

 

三宅:確かに。

 


図書館と書店の違い


 

朱:これは図書館と書店の違いだと思います。司書さんとかいらっしゃるんですけど、図書館はなるべく公益性が高いようにラインナップを揃えるじゃないですか。

 

三宅:私は旅先で書店や図書館を見かけたら入るのが好きなんですけど、いつも思うのが、図書館はある意味全国同じものが置いていてほしいということなんですよ。図書館が、例えば地方と都会で差があるとすると、それはよくないと思うんです。

 

朱:その格差があるべきではないですよね。

 

三宅:だから図書館には、郷土の本棚があるとか、児童書が多いとかの違いはあるとは思うんですけど、基本的には同じ本が置いていてほしい。一方で書店は、書店ごと・地域ごとに違う、ということの方が大切。なぜなら「本」が「商品」だから。たくさん買われるものが置かれるべき、ということの中に、その土地らしさというか、「学生さんが勉強熱心なところなのかな」、「駅前だからビジネスパーソンも行くんだな」とか、特色が出ている方が安心するというか、嬉しい気持ちになるんですよね。

八戸ブックセンターは公設の書店で全国的にも珍しいですが、八戸的な棚というのもありつつ、選書している方の顔も見えて、それでいて市民のみなさんが使ってる感じもよくわかるので、その辺のバランスがすごい絶妙で、なるほど!と思いました。

 

朱:失礼なことを言ってしまいますけど、行政にこんなことができるんだ、と思っちゃいました(笑)いろんなところが視察に来てほしいですね。

 

三宅:そう、だから公営書店が増えてほしい。書店の経営が難しい時代に、もちろん公設の図書館もいいけれど……書店という、要は、その土地の人がどういうものを買っているのか、どういう思想をその土地の人に伝えたいのか。そういった土地の価値観をもっと表現しつつ届けられる場所。そういう意味で公設の書店が増えるというのは、いいことなんじゃないかなと思います。

 

 

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