髙森美由紀×夏目浩光スペシャル対談(1)ーー「山のふもとのブレイクタイム」の執筆について

令和3年9月に三戸町在住作家・髙森美由紀さんの「山のふもとのブレイクタイム」と「柊先生の小さなキッチン 〜雨のち晴れの林檎コンポート〜」が発売になりました。

これにあわせ、RABラジオ「GO!GO!らじ丸」のパーソナリティなどでおなじみの夏目浩光さんが髙森美由紀さんに作品の創作秘話などを聞く対談が実現!青森や東北地方を描くことや、魅力的なキャラクターがどう生まれたのかというような作品の創作秘話のほか、エッセイを書きたいという想いやこれから書いていきたい作品のテーマなどを通して髙森さんご自身についてさらに知ることができる対談となりました。

ここでは大ボリュームのインタビューを、5回の連載記事としてご紹介していきます。

(対談の収録は令和3年10月10日に三戸駅前にあるカフェ「南部どき」(南部町)さんのスペースをお借りし、非公開で行いました)

 

 

■スペシャル対談企画
〜RABラジオパーソナリティ・夏目浩光さんが髙森美由紀さんに聞く 創作のプロセスと作品への想い〜

  1. 「山のふもとのブレイクタイム」の執筆について
  2. 郷土・青森を描くということ
  3. 料理の描写とキャラクターづくり
  4. 「柊先生の小さなキッチン」と、作品に共通すること
  5. エッセイへの想いとこれから書きたいこと、執筆中の作品

 


1.「山のふもとのブレイクタイム」の執筆について


夏目浩光さん(以下、夏目):髙森さんとしては「山のふもとのブレイクタイム」はどんな心境で書かれた本なんですか?

髙森美由紀さん(以下、髙森):一回目の原稿は、一巻を踏まえて登磨の過去から現在に至るまでを書こうと思ってたんです。でもその原稿を送った時の、編集の⼭本さんのお返事が「没ではないんですけども」でした。こりゃ没だな、と思いました。書いている途中で、私自身も登磨[1]っぽくはないかなって思い始めてたんですよね。でも登磨の過去を自分が知りたくて書いているところがあったので、もう一越え、山を越えたら(ストーリーが)通るんじゃないかって書きあげて出したら案の定没で、「あっ、やっぱりそうか」と思って。書く側がそういう風に思って書いても、読む方が全然違うように捉えるんだなってそのとき改めて思って。いままではなんとなく書き手側の好きなように書いてきたんですけど、改めて、読む人の側が主人公にどういう感情を持って一巻目を読んでたかっていうのをちゃんと把握して続き物はやらなきゃいけないんだなって、すごい勉強になりました。


夏目:要は、読者がどういう風に読んでくれるかなっていうのをかなり意識して書いたっていう……

髙森:そうですね……ちょっとやらしい話になりますね(笑)読者さんを意識しなかった場合、一発目のを押し切ろうとしてがんばったと思います。山本さんは「書き直してもいい」っておっしゃってくださったんですけど、それってどういう意味だろうって考えて。じゃあやっぱりそこにズレが出て来てたんだなって、ちゃんと軌道修正しないとなって。なので、山本さんはすごいやり手だなって思ったし、ちゃんと読んでくれる方を見ることが表現者としては大切なんだろうなって思いました。

夏目:作家デビュー[2]してからこういう経験っていままでありましたか?


高:没は多いんですけど……。書き進めていって(進めるのが)ちょっと無理じゃないかなってなったとき、単発の作品だったらそこで切り替えて、まったく違うテーマとかを拾ってきて書けば早いんですけど、続き物で没ってなると自分が考えてた世界と読者が考えてた世界が違うってことをまず自分に納得させて、自分の考えてた世界を潰してからやり始めるのが続き物を書いていくっていうことなんだろうなって。読者さんの印象を大事にしながら、話をさらに深めて、広げていくっていうのを学んだ点でははじめてです。

夏目:デビューから一貫して、自分で「こういうものを書こう」と思って書いてきたと思うんですけれど、読者にどう届けたいとか、どう伝わるかっていうことをかなり意識して書いたっていうのは初めてでしょうか?

髙森:そうですね、一回没にならなかったら分からなかったことです。そのまま通っていても、どっかで同じ指摘をされるんでしょうけど、いまそれを知れてよかったです。

夏目:それはいままでの本を書いてきたなかでは、つらかった経験になりますか?


髙森:つらかったっていうより、重かったんですよね。つらいというのは私の場合は書けないことです。作品を書いてそれが没でもまた新しいものを書けばいいって思うから没はいいんですけど、書けない、⾃分が進んでいけないっていうのはつらいです。没になって、⼀回⾃分の考えを潰してからもう⼀回続き物を書くっていうのは、重い。読んでくださる⽅と編集者の⽅を、おこがましいんですけど裏切りたくないっていう思いが重かったのかな。それも全部⾃分なんですけどね。周りがそうしろって⾔ったわけじゃなくて、勝⼿に⾃分がそういう⾵に、裏切りたくないっていう思いで、作品が重かったっていうのはあります。つらいとはちょっと違うんですよね。

夏目:でも作品はすごく軽やかで、重さは感じないですよね。

髙森:ありがとうございます。軽やかとか、明るいとか言われると嬉しいですね。

 

 

◆注釈

1.『山のふもとのブレイクタイム』のメインキャラクター・明智登磨。Uターン起業しレストランを経営するイケメンシェフ。

2.東日本大震災に見舞われ孤児になった子どもと彼を受け入れる家庭の少年との交流を描いた『いっしょにアんべ』(2014年フレーベル館 刊 第44回児童文芸新人賞を受賞)でデビュー。

 

◆プロフィール

髙森美由紀(たかもり・みゆき)

1980年青森県三戸町生まれ。三戸町在住。図書館に派遣社員として勤めるようになってから小説執筆開始。児童書で東日本大震災に見舞われ孤児になった子供と彼を受け入れる家庭の少年との交流を描いた『いっしょにアんべ』(2014年フレーベル館 刊 第44回児童文芸新人賞を受賞)でデビュー。同年、津軽塗職人の親子を描いた『ジャパン・ディグニティ』(産業情報センター 刊)で一般書デビュー。2017年、盛岡市の古いアパートを舞台に現代に生きる若者と大家の老婆との触れ合いを描いた『花木荘のひとびと』で集英社が主催する第84回ノベル大賞大賞を受賞。アンソロジーを含め、これまでに18冊刊行。最新刊は『山のふもとのブレイクタイム』。

夏目浩光(なつめ・ひろみつ)

1967年愛知県豊橋市生まれ。1990年、青森放送にアナウンサーとして入社。全国高校サッカー選手権ではメイングループに選出され、開会式や準々決勝など全国大会10試合以上を実況。現在はラジオ制作部に所属し午後のワイド番組「GO!GO!らじ丸月曜日」のパーソナリティを務める。同番組は2017年日本民間放送連盟賞ラジオ教養部門優秀賞・2019年日本民間放送連盟賞ラジオワイド部門優秀賞を受賞。ディレクターとして取材をした「あなたと見た風景~目の見えない初江さんの春夏秋冬~」は第74回文化庁芸術祭ラジオ部門優秀賞受賞。2021年はコロナ禍の視覚障害者の生活を取材・制作した「ふれられない日常~視覚障害とコロナ禍~」が日本民間放送連盟賞教養部門優秀賞を受賞し5年連続で同部門優秀賞を受賞している。

 

 

→次項「2.郷土・青森を描くということ」

 

 


 

 

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