髙森美由紀×夏目浩光スペシャル対談(4)ーー「柊先生の小さなキッチン」と、作品に共通すること

令和3年9月に三戸町在住作家・髙森美由紀さんの「山のふもとのブレイクタイム」と「柊先生の小さなキッチン 〜雨のち晴れの林檎コンポート〜」が発売になりました。

これにあわせ、RABラジオ「GO!GO!らじ丸」のパーソナリティなどでおなじみの夏目浩光さんが髙森美由紀さんに作品の創作秘話などを聞く対談が実現!青森や東北地方を描くことや、魅力的なキャラクターがどう生まれたのかというような作品の創作秘話のほか、エッセイを書きたいという想いやこれから書いていきたい作品のテーマなどを通して髙森さんご自身についてさらに知ることができる対談となりました。

ここでは大ボリュームのインタビューを、5回の連載記事としてご紹介していきます。

(対談の収録は令和3年10月10日に三戸駅前にあるカフェ「南部どき」(南部町)さんのスペースをお借りし、非公開で行いました)

 

 

■スペシャル対談企画
〜RABラジオパーソナリティ・夏目浩光さんが髙森美由紀さんに聞く 創作のプロセスと作品への想い〜

  1. 「山のふもとのブレイクタイム」の執筆について
  2. 郷土・青森を描くということ
  3. 料理の描写とキャラクターづくり
  4. 「柊先生の小さなキッチン」と、作品に共通すること
  5. エッセイへの想いとこれから書きたいこと、執筆中の作品

 


4.「柊先生の小さなキッチン」と、作品に共通すること

 

 

夏目浩光さん(以下、夏目):同時期に『柊先生の小さなキッチン』が発売になり、お料理も出てるんですけど、これはほぼ同時進行で書いてたんですか?

髙森美由紀さん(以下、髙森):だいたい同じでやってたと思います。


スタッフ:料理を扱いつつ、雰囲気が2作で違うなと思っていて、『山のふもと〜』のほうが料理の工程が詳しく書かれているような気がしたんですけど、意図されてたのでしょうか?

髙森:それは確かにありましたね。それも編集さんなんですよ。(編集者の)山本さんに書いてほしいと言われて詳しく書きました。『柊先生〜』のほうはページ数がだいたい307ページに収まればいいということが決まっていて、料理シーンをあまり書き込みすぎると別の描写を削らなきゃいけなくて、わりと浅めに書いた感じですね。

スタッフ:編集者さんのアドバイスだったんですね。『柊先生〜』は家庭料理的なメニューだったので、詳しく書かなくても読者の人がイメージしてくれるから軽い描写なのかなと思っていました。

髙森:ポイントは押さえておいて……全部圧力鍋なんですよね。なので、切るとかまでは作業があるんですけど、鍋につっこんじゃうとあとは何もすることがないという……(笑)簡単っちゃ簡単なんですよね。でも確かにその違いはありました。

 

夏目:読者層みたいなものは同じ設定ですか?


髙森:『柊先⽣〜』のほうが若⼲若いかもしれないです。編集さんから読者層は20代後半から30代で書いてくれって⾔われて、『⼭のふもと〜』のほうは、あまり年代的なねらいは⾔われなくて、おいしそうなものをということだったと記憶しています。年齢は縛りがなかったんですよ。私としてはもうちょっと上まで……下は20代とか、10代とかでもいいんですけど、上はもうちょ っと広く考えてました。

夏目:中高生くらいの人が『柊先生〜』を読んで髙森さんに興味を持って『山のふもと〜』に行けばいい流れだなあと思いました。

髙森:神展開ですそれは(笑)そうなってほしいです。

 

夏目:ふたつのシリーズっていうのは今後も続いていくと思われますか?

髙森:続けたいですけど、どうなんですかね?そこはもう出版社次第なんですが……まあそれで終わりでもそういうような作品は書きたいなと思ってるんで。明るくて、安全で、ふんわりした感じのを書きたいって思ってます。

スタッフ:もしシリーズ続編が出るとなったときに書いてみたいお話などはありますか?

髙森:『山のふもと〜』のほうは、前にテレビの番組で見たんですけど、(レストランに)何人かで芸能人の方が行って、予約をしていないことで断られるシーンを見たんですよ。それをずっと書きたいなって思っていて。たとえば自分が出世して家族を高級な料理店に連れて行ったんだけど、予約が無いからって断られるお話。実は予約が無いからって断る店じゃなくて、もともと貧しい生活をしていたその人たちの身なりを見て断ってきていて、その人たちが山のふもとのレストランに来て食事をするとか。登磨の店はそういうお客さんも区別しないで受け入れるんで、そういう親子のやりとり、それまでの流れみたいなのとかですね。あとはレストランに入って食事できないっていう……トラウマではないけれど、レストランが苦手っていう人も中にはいるはずで、そういう人が来た場合、登磨たちがどんな反応をするかっていうのとかも書きたいなって思ってます。

『柊先生〜』のほうは、学校の生徒たちの悩みを料理とくっつけたいなって思ってますね。万福荘から出るかたちになるかもしれないし、万福荘で生徒たちの悩みを組み合わせて解決していくっていうかたちになるかもしれないですけど、万が一シリーズにしていただけるならそういう風に書いていきたいです。万福荘のまわりに広がっていくようにはしたいなって思っていて。

 

夏目:『山のふもと〜』シリーズは葵レストラン、『花木荘のひとびと』[1]は葵ちゃんがでてきたりと、このふたつの作品に「葵」というワードが共通して出てくるんですけれど、何か意識されているものだったんですか?


髙森:わたしは最初名前に苦労するんですけど、青森県って高い建物が少なくて、いつも空が見えるんで、「葵」っていうのがいいなって思ったんですよね。なんとなく自然とか空を感じられるし、語呂的にも<「あお」もり>だしと思って。どっちにも使っちゃうっていうのは、それがずっとあったのかもしれないです。

『花木荘〜』は、読んでくれた人がこの続きちょっと見たいよねって言ってくださったんですよ。それも図書館に来たお客さんなんですけど。なのでどっかでそれを書きたいなと思ってて。せっかく同じ盛岡に住んでる人同士なので、どっかで会わせたいなって思ってて、今回うまい具合にマリーさん[2]が髪切りたいって言ったんで、じゃあその店に連れて行こうって思って。花木荘を読んでくださった人が「ああこの葵って人知ってる」ってなってくれたらちょっとおもしろいかなって思って書いたんですよね。


夏目:けっこう作家さんって自分の作品で遊ぶことありますよね。

髙森:はい、そうです。まさに遊んでますあれは。

 

 

◆注釈

1.2017年 集英社刊(集英社オレンジ文庫)。盛岡のアパートを舞台に、住人たちの交流を描く。

2.『柊先生の小さなキッチン 〜雨のち晴れの林檎コンポート〜』に登場するキャラクター。今作で『花木荘のひとびと』のキャラクターと出会うシーンが描かれている。

 

◆プロフィール

髙森美由紀(たかもり・みゆき)

1980年青森県三戸町生まれ。三戸町在住。図書館に派遣社員として勤めるようになってから小説執筆開始。児童書で東日本大震災に見舞われ孤児になった子供と彼を受け入れる家庭の少年との交流を描いた『いっしょにアんべ』(2014年フレーベル館 刊 第44回児童文芸新人賞を受賞)でデビュー。同年、津軽塗職人の親子を描いた『ジャパン・ディグニティ』(産業情報センター 刊)で一般書デビュー。2017年、盛岡市の古いアパートを舞台に現代に生きる若者と大家の老婆との触れ合いを描いた『花木荘のひとびと』で集英社が主催する第84回ノベル大賞大賞を受賞。アンソロジーを含め、これまでに18冊刊行。最新刊は『山のふもとのブレイクタイム』。

夏目浩光(なつめ・ひろみつ)

1967年愛知県豊橋市生まれ。1990年、青森放送にアナウンサーとして入社。全国高校サッカー選手権ではメイングループに選出され、開会式や準々決勝など全国大会10試合以上を実況。現在はラジオ制作部に所属し午後のワイド番組「GO!GO!らじ丸月曜日」のパーソナリティを務める。同番組は2017年日本民間放送連盟賞ラジオ教養部門優秀賞・2019年日本民間放送連盟賞ラジオワイド部門優秀賞を受賞。ディレクターとして取材をした「あなたと見た風景~目の見えない初江さんの春夏秋冬~」は第74回文化庁芸術祭ラジオ部門優秀賞受賞。2021年はコロナ禍の視覚障害者の生活を取材・制作した「ふれられない日常~視覚障害とコロナ禍~」が日本民間放送連盟賞教養部門優秀賞を受賞し5年連続で同部門優秀賞を受賞している。

 

 

→次項「5.エッセイへの想い」

←前項「3.料理の描写とキャラクターづくり」

 

 


 

 

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