髙森美由紀×夏目浩光スペシャル対談(3)ーー料理の描写とキャラクターづくり

令和3年9月に三戸町在住作家・髙森美由紀さんの「山のふもとのブレイクタイム」と「柊先生の小さなキッチン 〜雨のち晴れの林檎コンポート〜」が発売になりました。

これにあわせ、RABラジオ「GO!GO!らじ丸」のパーソナリティなどでおなじみの夏目浩光さんが髙森美由紀さんに作品の創作秘話などを聞く対談が実現!青森や東北地方を描くことや、魅力的なキャラクターがどう生まれたのかというような作品の創作秘話のほか、エッセイを書きたいという想いやこれから書いていきたい作品のテーマなどを通して髙森さんご自身についてさらに知ることができる対談となりました。

ここでは大ボリュームのインタビューを、5回の連載記事としてご紹介していきます。

(対談の収録は令和3年10月10日に三戸駅前にあるカフェ「南部どき」(南部町)さんのスペースをお借りし、非公開で行いました)

 

 

■スペシャル対談企画
〜RABラジオパーソナリティ・夏目浩光さんが髙森美由紀さんに聞く 創作のプロセスと作品への想い〜

  1. 「山のふもとのブレイクタイム」の執筆について
  2. 郷土・青森を描くということ
  3. 料理の描写とキャラクターづくり
  4. 「柊先生の小さなキッチン」と、作品に共通すること
  5. エッセイへの想いとこれから書きたいこと、執筆中の作品

 


3.料理の描写とキャラクターづくり

 

夏目浩光さん(以下、夏目):作品の内容も重要なんですけど、出てくる食べ物も、読者の方が期待しているところもあるんじゃないかと思います。

髙森美由紀さん(以下、髙森):だいたいいつも話の内容ができてから内容に沿う食材や料理を検索して拾ってきて組み込むということをしています。私は順序⽴ててものを考えられる⼈間じゃないので、これとこれとこれとこれを⼀緒にしたいという⾵に……例えば、完璧主義者で親に抑圧されてきた⼈、っていう1個(のテーマ)があって、もう1個、傘のテーマがあって、なんとかひとつにしたいなってずっと考えてて。そのなかで、そろそろ3章あたりでケーキを出したいなってネットで探して、インビジブルケーキっていうのが⾒つかって。そしたらなんとなく、これでいけそうって思ったんで、そっからくっつけて 切ったり貼ったりして進めた感じで。

夏目:いつもこの話になると聞くんですけど、髙森さんは料理が苦手とか、あんまりしないというレベルではないんですよね。

髙森:じゃないです。レベチです(笑)できないんですね、もう(笑)何で⾷べられる材料を使って、⾷べられないものができるんだって再三⾔われてきました。ある種才能っていうか、病⼈っていうか病気っていうか、そんな感じです。だから書くに当たっては、想像するしかないです。


夏目:僕がびっくりするのは、料理をつくることができない人がなぜこんなおいしそうな本が書けるのか……

髙森:テレビの料理番組を観ますね。書こうと思ったら、同じメニューを料理してるYouTubeを拾ってきてずっと何回もループで見て、一時停止して、また戻ってとか何回も見て。あと音。泡立つ音とか、油が弾けるのとか、そういうのをずっと聞いていて。だから普通の方が料理をつくるのよりもすごい時間がかかります。難しいですね、やっぱり。

夏目:作らないけど、食べるのにものすごくこだわりがある食通ってことでもない?

髙森:ないですないです。なんでもいいです。死なない程度に食べればいいと思っていて。なので……なんで書いたんですかね?わかんないですけど……(笑)わかんないから知りたいんですかね?切り方とかも全然知らないし、知りたくて書いてるのもあるかもしれないです。

夏目:だから料理を題材にしたものを書こうとしたら徹底的に調べるわけですよね。


髙森:調べます。すんごい調べます。1個の料理に対して、サイトを10とか20とか見ます。そこで平均的なつくり方とか、料理の変わっていくようすとか、そういう平均的なことをメモしておいて、書き出すっていう感じになりますね。つくれる人はそんな苦労しなくてもいいんだろうなあと思う。

夏目:ラジオに髙森さんが出たとき、青森の食材を探すのに農林水産省のホームページをご覧になったのを話してたじゃないですか。それを聞いて編集者の山本さんが、まさかそんなホームページを見ていたなんてびっくりしましたって。

髙森:見ますね(笑)特にああいう公式なのは信用性が高いから、そういう農水省のとか、青森県でやっている農産物のサイトがあるじゃないですか。あれもヘビーユーザーですね。

あと、野菜とか魚が出回る時期、水揚げ量とかを出してるサイトがあるんですね。それもお気に入りにブックマークしておいて、必ずそれで検索して、その時期に何が出るか、この時期はこれが旬だからちょっと入れられるかなっていうのを、すごい調べます。

 

夏目:髙森さんの特徴の人間観察はいまどういう風になさってるんですか?


髙森:前とそう変わらないと思うんですよね。図書館に勤めてるんですけど、来館者さんの中には、個性が強くて濃い方もいらっしゃるので、そういう方を参考にさせていただいてます。

夏目:この「山のふもとのブレイクタイム」はイケメンシェフの登磨が主となっているんですが、登磨のモデルみたいな人は来館者の中にいるんですか?

髙森:これ、来館者の中にはいなかったんですよ……ふんわりして捉えどころがないっていうのは大泉洋さんの魅力をほんの少し頂戴しました。水曜どうでしょうをかなり見ていて、この人はディレクターがぶつけてきたことをぼやきながらもちゃんと乗ってくし、否定もしないし、受け入れてからぼやくっていうそのスタイルがすごい気になってて。たぶん自分が書いたことが無いキャラだったんですよね。自分の周りにもいないし、興味を持って。1回 (原稿が)没になったときには、キャラを、ちゃんと⾃分のなかで落とし込んで書かなきゃならないって思いました。

夏目:今回、サイドのキャラクターでは西野将晴[1]という人物がちょっと個性の強い人として出てきますよね。

髙森:図書館に来る人でそういう感じの人がいたんですよね。登磨っていう捉えどころのない人間に、そういう個性の強い人をぶつけたら、登磨はどういう反応をするんだろうと思って、それを書いたんですよね。

夏目:じゃあ、三戸の図書館に行くと小説に今後登場する可能性はあるってことですか?

髙森:来てください(笑)ほぼ拾ってますね。


夏目:その回でね、八戸に行くじゃないですか。ホテルがあったりしますよね、ああいう、八戸のホテルのモデルとかってあるんですか?

髙森:白山台に行く途中……グランドサンピアっていうところがあって、あれを規模を大きくして、見晴らしのいいところって考えてだいたいあの位置で書いたんですよね。

夏目:そういうモデルになった場所のイメージもあるっていうことですね。

 

 

◆プロフィール

髙森美由紀(たかもり・みゆき)

1980年青森県三戸町生まれ。三戸町在住。図書館に派遣社員として勤めるようになってから小説執筆開始。児童書で東日本大震災に見舞われ孤児になった子供と彼を受け入れる家庭の少年との交流を描いた『いっしょにアんべ』(2014年フレーベル館 刊 第44回児童文芸新人賞を受賞)でデビュー。同年、津軽塗職人の親子を描いた『ジャパン・ディグニティ』(産業情報センター 刊)で一般書デビュー。2017年、盛岡市の古いアパートを舞台に現代に生きる若者と大家の老婆との触れ合いを描いた『花木荘のひとびと』で集英社が主催する第84回ノベル大賞大賞を受賞。アンソロジーを含め、これまでに18冊刊行。最新刊は『山のふもとのブレイクタイム』。

夏目浩光(なつめ・ひろみつ)

1967年愛知県豊橋市生まれ。1990年、青森放送にアナウンサーとして入社。全国高校サッカー選手権ではメイングループに選出され、開会式や準々決勝など全国大会10試合以上を実況。現在はラジオ制作部に所属し午後のワイド番組「GO!GO!らじ丸月曜日」のパーソナリティを務める。同番組は2017年日本民間放送連盟賞ラジオ教養部門優秀賞・2019年日本民間放送連盟賞ラジオワイド部門優秀賞を受賞。ディレクターとして取材をした「あなたと見た風景~目の見えない初江さんの春夏秋冬~」は第74回文化庁芸術祭ラジオ部門優秀賞受賞。2021年はコロナ禍の視覚障害者の生活を取材・制作した「ふれられない日常~視覚障害とコロナ禍~」が日本民間放送連盟賞教養部門優秀賞を受賞し5年連続で同部門優秀賞を受賞している。

 

 

→次項「4.「柊先生の小さなキッチン」と、作品に共通すること」

←前項「2.郷土・青森を描くということ」

 

 


 

 

Share on Facebook0Tweet about this on Twitter0Share on Google+0
Twitter


Facebook

読書会ルーム

カンヅメブース

ブログ

フリーペーパー

パワープッシュ

37人のことば