髙森美由紀さん×高瀬乃一さん スペシャル対談レポート(後編)

2024.02.12

令和5年11月11日に株式会社成田本店さんの創業115周年記念として、髙森美由紀さんと高瀬乃一さんのトークイベントが青森市のSTART UP CENTERホールで開催されました。

前編では高瀬さんが時代小説を書くために行っていること、髙森さんの作品が原作となっている映画『ジャパン・ディグニティ』の脚本ができるまでの流れ、そして作品で描かれる方言や江戸時代のことばについてご紹介しました。

髙森美由紀さん×高瀬乃一さん スペシャル対談レポート(前編)

後編も作品の制作秘話など、貴重なお話が盛りだくさんです!

 


 

「幽霊さわぎ」制作秘話

 

櫻井:『おせん』が単行本として発売になった時に担当編集さんが変わられたと思うんですが、今回、高瀬さんがデビューしたときの担当編集の川田さんから「オール読物の編集長の石井くんが担当だよ」って言われたので、石井さんにも、すぐに連絡をとって話を聞きました。
今回おせんの中に「幽霊さわぎ」という短篇があって、これが娘さんとの会話のなかできっかけが生まれたという話だったんですけども……

高瀬:娘が3人いて、娘たちが写真を撮りあっているんですけど、アプリで加工するんですね、今の子たちって。素顔を撮らない、素顔を嫌がってしまう。それで私が娘たちに、「素顔じゃないとどうするの? 本当の顔がわからないじゃん」って言ったら、「本当の顔は恥ずかしい」って、思春期なのでそういうことを言っていて。私にはちょっとその感覚がわからなかったんですけど、でもその話がずっと心の中に残っていて、それを『おせん』の第3話の「幽霊さわぎ」に使って、自分の顔を残したくない女の人の話になりました。

 

櫻井:「幽霊さわぎ」は写真アプリがもとになったとは思えないような、艶っぽいというか、大人の色恋が絡んだお話なんですが……

 

高瀬:オール読物新人賞に出す前にR-18文学賞っていう女性向けの賞に出した作品が『おせん』の元で、もともとは半分くらいの長さで、艶っぽい部分だけが突出していた部分があったので、それがちょっと残っているというか。そういうところでも時代小説だからいいのかなと思って残しているというか。

 

櫻井:このお話のオチの付き方も私はすごく好きで、今回『おせん』の中に収められているなかで、「幽霊さわぎ」が一番おもしろかったです。

 

高瀬:出版関係の方もこの「幽霊さわぎ」が一番好きだっておっしゃいます。

 

櫻井:玄人好みなんですね(笑)

 

高瀬:編集長の石井さんも、これが一番いいって言うんですね(笑)これを越えてくれって言われます。

 

櫻井:越えてくれっていうことですと……「新人賞をとりました」「文学賞をとりました」っていう、賞を取ったっていう冠がついた作品は本屋さんにどんと並びますし、買われることが多いと思うんです。実際それがおもしろいことが多いと思うんですけど、そのあとに続く2作目3作目の作品の出来というのが、作家生命に関わるというか。やっていけるかどうか大きな境目だと思うんですけれど、石井編集長は高瀬さんのことをものすごく褒めてました。

 

高瀬:本当ですか?絶対褒めてくれないです(笑)本当に褒めてくれない。粗ばっかり結構言うんですね。
なんかそうやって人づてに(褒められていると)聞くと嬉しいですね。

 

櫻井:「新人作家にとって、受賞作品よりもそのあとからおもしろいことを書くっていうのが一番大事。作家としてやっていくにはそれが一番大事だ」「あとから書きあがってきたものがきちんとおもしろいものになっている。それがまずすごいこと」と仰っていました。

 

高瀬:つまらないものを書いたらもう仕事が来なくなると思うと「書かなきゃ!」という感じなんですけど、これはキャラクターに救われている部分もあるかもしれないです。

 

櫻井:(会場の)みなさんは時代小説、普段読まれますか? だんだん、「佐伯泰英の全部のシリーズ読んじゃったわ」、「もう読む作品無いわ」ってなってきてませんか? 新しい作家さんの登場を読者の方がものすごく待たれているジャンルが時代小説だと思うんです。なのでこの『おせん』が、本屋さんの棚一段を埋め尽くすくらいの大長編のシリーズになってくれたらなぁって、私たち書店員も読者の方も思っていると思うんですけれども、これは続きますか?(笑)

 

高瀬:続きます。続けてくださいとは言われています(笑)やっぱり続けてこそいきてくるというか、育ってくる作品だと自分も言われているので、こっから、私もまだわからないおせんの隠れた秘密などが出てくるかも。これからもっとあたらしい登場人物も出てくるかもしれないので、それを楽しみにしていただけたらなと思います。

 

櫻井:ちなみにですね、一番最初の担当の川田さんが、今現在、高瀬さんが東京とか都心部ではなくてこうして青森県の地方在住で、お子さんも育てながら小説を書いているっていうところが——コミック誌だったり文芸雑誌だったりに看板作品っていうのがあると思うんですけれど、「オール読物」に関しては、宇江佐真理さんの「伊佐次シリーズ」の主人公がものすごく高瀬さんと境遇が似ているので、なおさらがんばってほしい、「オール読物」の看板小説におせんがなるようにがんばってほしいってことでした。

 

高瀬:それに応えられるように家に帰ってすぐ勉強します(笑)

 

 

『ふたりのえびす』が課題図書に

 

櫻井:髙森さんは映画化っていう大きい嬉しい話があったかと思うんですけれど、今年はもうひとつありましたよね。『ふたりのえびす』が読書感想文の高学年の部の課題図書に選ばれたじゃないですか。

 

髙森:デビュー作の『いっしょにアんべ』っていうのと、その次の『ケンガイにっ!』っていう小説の最後に続く、「南部三部作として出してください」って編集さんに言われて書いた、えんぶりの、八戸のおまつりをネタにした話だったんですよ。

 

櫻井:みなさん子供の頃、課題図書のあのキラキラのシールが貼ってある本を本屋さんで買った経験ってあると思うんですね。あの課題図書に選ばれるって、直木賞とか芥川賞取ったのと同じくらいの効果があったんじゃないかと思うんです。北海道から沖縄まできっとどこの本屋さんでも並んだと思うんですよね。

 

髙森:そうですね……刷り、何刷りっていうのは自分のなかでは行ったほうですね。

 

櫻井:たくさん重版かかったんですね(笑)八戸が舞台の本が課題図書に選ばれたってこともうれしかったですけども、髙森さんの作品が全国の子供たちに読んでもらえるっていうことも、読者として、一ファンとしてもすごく嬉しかったです。

 

髙森:そうですね。八戸の祭りを知ってもらえるっていうのはやっぱり嬉しいですよね。知らない子たちもいっぱいいるんで、そういう文化があるんだよっていう。伝統ですしね。

 

 

それぞれ、ご家族の反応は?

 

髙森:高瀬さんに質問なんですが、娘さんとかに、小説書かれるお母さんってどう受け止められていますか?

 

高瀬:まったく他人事です。わたし3人娘がいるんですけれど、上と一番下はあんまり本読まないんで、私の仕事に関しても、もうあまり気にしない感じで。
2番目の子が高校生なんですけど、その子はわりと本読む子なんで、『おせん』とか、『ランティエ』(現在「名残の雪』が連載中)とか、必ず一番最初のさわりの部分を読んでもらって、高校生の子でも理解できる情景なのかは一応見てもらってます。だからちょっと艶っぽい部分も読ませちゃってて、「これは小説ですから、母が書いてると思わず、作家が書いてると思って読んでくれ」って言って、艶っぽい部分も読んでもらってる。
だけど基本は「なんか変なことやってる、家で」みたいな感じです。

 

髙森:旦那さんは……?

 

高瀬:『貸本屋おせん』が出て1年2年経つんですけれど、いまやっと3章まで読んでます。

 

櫻井:髙森さんのご家族は、髙森さんが書いた小説とか……

 

髙森:読まないんですよ(笑)一切読まないし、映画化になったとか新刊が出たとか、読書感想文に選ばれたとかって言っても「ふーん」って言う……(笑)

 

櫻井:娘が書いた小説が映画化、(会場に向かって)自慢したくてしょうがなくないですか!?

 

髙森:あんまりなんかこう反応が無いんですよね。だからご家族の方が読んでるっていうのすごいなぁって。どう思われるんだろうとかそういうのがとても不思議で。ちょっと質問させていただきました。

 

 

気になる新作は!?

 

櫻井:高瀬さんに新刊のお話を聞いていきたいんですが、まず、いま文庫本が一冊出たばかりですよね?アンソロジーということなので、何人か作家さんと一緒に載っているものになるんですが、PHP文芸文庫『なみだあめ』、これは宮部みゆきさんと一緒っていうのすごくないですか?

 

高瀬:そうなんですよ。いままで本を出したって言ってもそんなにみんなピンとこないんですけど、アンソロジーで宮部みゆきさんと名前が並ぶんだって言った瞬間に、近所の人が「すごい!」って(笑)

 

(会場笑う)

 

高瀬:で、うちの娘もやっぱり知ってるんですね、本を読まなくても。「ちょっとお母さん、宮部みゆきと同じところに名前が!」みたいな感じで言われて。読んでくれる(読者の)人がそれだけ数がいると思うと、これはチャンスだ、この仕事は絶対受けなければっていう風になりました。

 

櫻井:ちなみに年明けの1月にも文春のほうからもう1冊アンソロジーが出ると思うんですけど、『江戸に花咲く』という、これもまた宮部さんとご一緒……

 

高瀬:そうなんですよ!これは『貸本屋おせん』の内容で、このあいだ『オール読物』の11月号に載ったやつをそのまま……お祭りのシリーズだったので載るんですけど、最初からこの文庫として載せるので、お祭り、それも神田祭りで書いてくれっていうのが指定で。さらにそれを『おせん』の話で、おもしろく捕り物帖というか、謎かけめいたものも込みでっていう三重苦ぐらいの指定があって。それが7月くらいに話があって、それからつくってですね。で、このあいだ雑誌に載ってそれを手直しして文庫に。西條奈加さんとか、それこそたぶんみなさんが知っている方が、みなさんお祭りを書いている。おもしろいアンソロジーなので良かったら読んでいただけたらと思います。

 

櫻井:髙森さんは最近八戸寄りの作品をたくさん書かれていまして、菱刺しの話もありましたし……。

 

髙森:(次に発売になるのは)せんべい屋さんの話なんですけど、これは三戸町にある小山田せんべいっていう……ご存じの方いらっしゃいますでしょうか? そこに取材をして書き上げたものなんですけど、櫻井さんに(小説に出てくるせんべい店の名前が)「八戸にあるよ」っていうのを聞いて、やばいじゃんって。実在するのはまずいので、いま編集さんに言って(せんべい店を営む家族の)苗字と、タイトルもいま検討中です。(※その後タイトルは『小田くん家は南部せんべい店』に決定。徳間書店から2月に発売予定)

 

櫻井:お役に立てて光栄でした(笑)
南部せんべい書かれて、菱刺し書かれて、八戸で書いていないもの……三社大祭?

 

髙森:あっ、そうですね、三社大祭……えんぶりは書いたので……

 

櫻井:ねぶた、ねぷた、青森祭り三部作みたいな?(笑)

 

髙森:いいですね、三社大祭、ねぶた、ねぷた……

 

櫻井:八戸、青森、弘前、それぞれの本屋さんががんばって売ってくれると思うんですけど……(笑)

 

髙森:……そうしましょう!(笑)

 

 


 

会場で本を購入されサイン会に参加される方も多く、おふたりの作品の魅力に触れ、来場者の方々もとても楽しまれていたようでした。

これから発表予定の作品としては、髙森さんは南部せんべい店を描いた『小田くん家は南部せんべい店』(徳間書店)が2月に発売になるのと、高瀬さんは雑誌『小説現代』に連載中の無間地獄シリーズが『無間の鐘』(講談社)として3月に発売されるそうです。

青森で執筆を続けるおふたりの活動、これからも大注目です!

 

 

(スタッフnao)

 

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