【マイブック推進事業】ブックリスト「本はともだち」 保護者の方向けおすすめコメント
2021.06.23
八戸市内の小学生に、本が購入できるブッククーポン券を配布する「マイブック推進事業」。2014年から始まり、今年で8年目を迎えます。
2017年からは、クーポンとともに、おすすめブックリスト「本はともだち」を配布。小学生のみなさんに、「読んでみたいなあ」と思ってもらえるようなリスト作りをめざし、選書やレイアウトをしています。
今回、おもな選書を担当した、八戸工業高等専門学校教授・戸田山みどりさん、八戸ブックセンターの森花子による、保護者の方向けのおすすめコメントを作成しました。本を選ぶ際の参考にしてみてください。
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なお、各紹介文の最後に、どちらが書いたがわかるように表記しています。
(と)→ 戸田山みどり
(も)→ 森花子
*以下、バナークリックで、コメントにジャンプします*
ものがたりをたのしもう!
『くまのこのるうくんとおばけのこ』
東直子/作 吉田尚令/画 くもん出版(2020/10) 1,320円
くまのこのるうくんと、おばけのこの交流が描かれた幼年童話です。るうくんが散歩中に出会ったのは、おばけのこ。ぽんぽん山に一緒に上ることになりました。途中あらわれたのは、二つの分かれ道。ふたりは悩んだ末、別々に進み、てっぺんで会おうと約束しました。ふたりはまた会うことができるでしょうか。文章は、歌人でもある東直子さん。主人公ふたりのやりとりは、おもわず抱きしめたくなるようないとおしさです。絵を担当しているのは、吉田尚令さん。るうくんのすこしボケっとしているけど優しい目、おばけのこのクリンとした好奇心旺盛な目。目の動きだけでも二人の感情がしっかりと伝わってきます。文字は大きめなので、はじめてのひとり読みにもおすすめ。高学年のみなさんはもちろん、大人の私たちが読んでも、心に響く、やさしいものがたりです。(も)
『たまごのはなし』
しおたにまみこ/作 ブロンズ新社(2021/2)1,210円
決してかわいいとは言えない(どちらかといえば少し不気味な)たまご。主人公らしからぬいじわるな物言い、飄々とした態度。それでもどこか憎めないのはなぜでしょうか。すこしひねくれた気持ちになったり、愚痴を言いたくなったり…私たちも心のすみっこにも「たまご」のような存在がいるからかもしれません。漢字はひとつもないので、小学生低学年から読むことができます。50ページ近くありますが、全部で3篇のおはなしで構成されているので、少しずつ読み進められます。すこしシュールなこの物語は、中学年、高学年のみなさんはもちろん、大人のみなさんにも気に入っていただけるのではないでしょうか。(も)
『Mガールズ』
濱野京子/作 静山社 (2021/2) 1,320円
COVID-19が収束しても、また新しいウィルスが現れるかもしれない… これはそんな少し先の世界を舞台にした近未来SFです。オンラインでしか会えないクラスメート、家族がバラバラにしか出かけられない散歩、リモートワークのできる仕事とそうでない仕事の格差、親の見栄に苦しむ子ども、など、小学校の高学年にとって、気になる日常がより鮮明になる仕掛けです。それでも、オンラインならではの新しい出会いや、趣味を通じた友情の強さが、前向きな読後感をもたらしてくれます。音楽やダンスが好きなら、このたいへんな世界も、ちょっと羨ましく見えるかも。(と)
『リンゴちゃんのいえで』
角野栄子/作 長崎訓子/絵 ポプラ社(2021/01) 1,100円
世界一「わがままな」お人形であるリンゴちゃんのシリーズ4作め。なんでも世界で一番でないと気が済まないリンゴちゃんが、今度はお友だちのマイちゃんとけんかして、家をとびだします。あてもなく歩き出したリンゴちゃん。次々と出会いがありますが、なかなかリンゴちゃんの思ったようにはいかず… はっきり自己主張するリンゴちゃんが羨ましかったり、自分を重ね合わせたり、時にはちょっぴり優越感を抱いたりしながら、読者は一緒に冒険を楽しめるでしょう。お話が好きなお子さんなら、1年生から。(と)
『ぼくの犬スーザン』
ニコラ・デイビス/文 千葉茂樹/訳 垂石眞子/絵 あすなろ書房(2020/10)1,320円
どんな子どもでも苦手なものがありますし、いつも周りとうまくいっているわけではありません。しかし、特別に敏感な神経の持ち主、変化が苦手な特性を持っている子どもたちにとっては、ちょっとした出来事でさえ、たいへんなストレスです。しかも、周りの大人がそれを理解してくれなかったら…この物語はそのような子どもの一人であるジェイクの視点から描かれています。彼にとって幸いだったのは、迷子の犬を飼わせてもらえたこと。家庭も学校も試行錯誤しながら彼を支え、ジェイクも少しずつ折り合いをつけるすべを得ていきます。世の中にはいろいろな感じ方や立場のお友達がいるのだということに気づき始めた学齢のお子さんたちに、ぜひ勧めたい作品です。(と)
妖怪一家九十九さん『妖怪一家のウェディング大作戦』
富安陽子/作 山村浩二/絵 理論社(2019/02)1,430円
妖怪一家九十九さんシリーズ8作目ですが、ここから読み始めても大丈夫。物語はヌラリヒョンパパが務める市役所の地域共生課の窓口に、若いタヌキのカップルが現れたところから始まります。彼の方は天涯孤独の都会育ち。人間に化けてコンビニ勤め。彼女の方は、地方の名家出身。都会暮らしに憧れてやってきました。二人(二匹!)は恋に落ち、結婚を決意したのは良いのですが、彼女の親戚総勢46名を人間流の結婚式でもてなさなければならない羽目になり、相談に駆け込んできたのです。地域共生課の人間の職員と九十九さん一家の妖怪が総出で協力し、この難題を乗り切ります。シリーズものにハマりたい読者にもぴったりです。(と)
『4ひきのちいさいおおかみ』
スベンヤ・ヘルマン/文 ヨゼフ・ヴィルコン/絵 徳間書店(2021/01)1,980円
小さい子はお母さんが大好き。お母さんがいなくなると不安になります。でも、ある時ふと、お母さんがいなくても平気な瞬間がやってきます。このお話の4ひきのちいさいおおかみたちは、ある晩、おかあさんがいない間に、森の中に散歩に出かけてしまいます。最初に一歩踏み出すのは女の子のおおかみ。散々遊んで、ちょっと道に迷い、お腹をすかせて帰ってみると、さすがにお母さんは怖い顔をして見せますが。全編ひらがなで書かれているので、1年生でも一人で挑戦できそうです。(と)
『おさるちゃんのおしごと』
樋勝朋巳/作 小学館(2021/01)1,540円
整骨院で仕事をしているおさるちゃんは、月に一度山へ帰り、仲間たちにマッサージをしてあげます(手伝ってくれるのは犬のペロ)。おさるちゃんたちが施すのは、腰や首のマッサージだけではありません。からだが針だらけで、マッサージをしてもらえないと泣いてしまうハリネズミさんには、やさしくお腹をマッサージ、背中がかゆいというこぐまちゃんには背中をかいてあげたりもします。体だけではなく、心までほぐれていくようなマッサージ。山の仲間たちはおさるちゃんが来てくれるのをいつもとても楽しみにしているのです。樋勝さんの描く絵本は、ユーモラスでくすっと笑える絵本がたくさん!登場人物たちは、感情を隠すことなく、泣いたり笑ったりします。素直な感情表現に、ついつい読んでいる私たちも心を動かされてしまいます。ちなみに、本作でお手伝いをしてくれたペロは、本作シリーズの『ペロのおしごと』で、お母さんのためにいろんなお仕事をしています。こちらもぜひ読んでみてくださいね。(も)
『おおきなキャンドル馬車にのせ』
たむらしげる/著 偕成社(2021/02)1,540円
小人のニコさんと、ロボットのダダくんは、森でとってきたハチの巣からキャンドルをつくります。そしてそのキャンドルを馬車にのせ、パカポコパカポコ・・・。ゆっくり向かう馬車を、シナモンを乗せた空飛ぶバイクや、イチゴを乗せたトラックが、追い抜いていきます。どうやら同じ場所へ向かっているようです。辿りついた先では、みんなが運んだ材料を使って、小人たちが大きなケーキを作っていたのです! 最後には、ニコさんたちが運んだキャンドルを立て、火をともします。うまれてきてくれたすべての子どもたちへ、お祝いの気持ちをこめて、空に浮かぶお月さまが火を吹き消すのです。80歳をこえてもなお、みずみずしい絵本を生み出しているたむらしげるさんの最新作です。(も)
『おじいちゃんのたびじたく』世界の絵本コレクション
ソヨン/文・絵 斎藤真理子/訳 小峰書店(2021/02)1,540円
ある日、おじいちゃんのもとへあらわれたのは、おばけのような、ゆうれいのようなおきゃくさま。「まってたんだよ!」と、旅支度を始めるおじいちゃん。誰にでも訪れる「死」を、「旅立ち」として描いた本作。翻訳を手掛けたのは、数々の韓国文学を翻訳してきた斎藤真理子さんです。斎藤さんがこの本について受けたインタビューの中で、韓国の絵本の特徴についてこう語られています。“韓国社会はたいへん倫理観を大切にするので、「こうあってほしい人間像」を子供に示すことに積極的なのだと思います。―中略― ダイバーシティを意識している点も特徴的だと思います。”(小峰書店・『おじいちゃんのたびじたく』特設ページより)。韓国の絵本『3人のママと3つのおべんとう』(ブロンズ新社)では、仕事も性格も、とりまく環境もまったく異なる3人のお母さんを描いていました。子どもを気に掛ける気持ちは同じだということ、勝手にお母さん像をつくる違和感についてのメッセージ。ごく当たり前のこととして、ダイバーシティについてふれる絵本が増えていくことは、とても大事なことだと思っています。(も)
『ぼくのあいぼうはカモノハシ』
ミヒャエル・エングラー/作 はたさわゆうこ/訳 徳間書店(2020/08)1,540円
ドイツの男の子、ルフスは、お母さんとお姉さんと暮らしています。エンジニアをしているお父さんはオーストラリアに単身赴任をしているので、なかなか会うことができません。ある日、ルフスは人間の言葉を話すカモノハシと出合います。名前はシドニー。動物園から抜け出してきたというシドニーは、「故郷のオーストラリアに帰りたいから手伝って」と、ルフスにお願いをします。「お父さんに会いたいならちょうどいいでしょ」とも。木に登ればオーストラリアが見えるかも!ボートに乗れば海に出れるよ! なんだかとんちんかんな二人のアイデアで、シドニーはオーストラリアへ帰ることができるのでしょうか?とんちんかんとはいえ、れっきとした冒険物語。小学校中学年くらいからがおすすめです。(2021年の課題図書にも選ばれました)(も)
『めいたんていサムくんとあんごうマン』
那須正幹/作 はたこうしろう/絵 童心社(2020/12)1,210円
小学2年生のサムくん(本名・井上オサム)は、推理が得意。今までたくさんの事件を解決してきたので“めいたんていサムくん”と呼ばれています。そんなサムくんのもとに、不思議な封筒が届きます。そのままでは読むことができないその手紙は、あんごうマンからの挑戦状だったのです!サムくんは、あんごうマンからの暗号を読み解き、正体を暴くことができるのでしょうか・・・?作者は、「ズッコケ三人組シリーズ」でおなじみの、那須正幹さん。暗号を読み解きながら進んでいく物語ですが、わかりやすく描かれているので小学生低学年から楽しめるミステリーとなっています。全ページに、はたこうしろうさんのイラストが満載なのも、おすすめポイントです。(も)
『ロイヤルシアターの幽霊たち』
ジェラルディン・マコックラン/著 金原瑞人/訳 小学館(2020/10)1,760円
舞台はイギリスの海辺の町シーショー。リゾート地としてのかつての賑わいはすっかり忘れられ、街はさびれています。由緒ある劇場も閉鎖され、今では町内の幽霊が集まって住み着くしまつ。そこにある日、若い演劇関係者の家族が見学にやって来ます。劇場の再開が目的でした。なぜか一家の娘であるグレイシーには人間には見えないはずの幽霊が見えていて、一人一人の幽霊にその来歴を語るように迫ります。さまざまな時代で幽霊にならざるを得なかった人々が、それぞれに大切にしてきたものと、現代のイギリス社会の価値観とが対比され、最後には時代を超えて大切に受け継がれるものが明らかになっていきます。シーショーのモデルは実在の町マーゲイト。美術館やちょっと変わったお店など、現実に基づく描写も登場します。インターネットで画像などを調べながら読むと、より一層楽しめるでしょう。(と)
『さいごのゆうれい』
斉藤倫/著 西村ツチカ/画 福音館書店(2021/04)1,870円
世界中がかなしみや後悔を忘れ、幸せに過ごしていた「大幸福じだい」のお話です。お盆におばあちゃんの家へ預けられた小学5年生のハジメ。空港のあるその町で、お盆最初の日にであったのはネムという名前のちいさな女の子。ネムは自分を「さいごのゆうれい」だと言います。ゆうれいをすくうため、かなしみを失った世界を取り戻すため、ハジメとネムが過ごす、4日間のものがたりです。『どろぼうのどろぼん』や、『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』『レディオワン』など、独特の世界観でさまざまな作品を生み出してきた、詩人の斉藤倫さん。4年ぶりの長編となる『さいごのゆうれい』は、読み応えたっぷり、夏休みにぜひ挑戦してほしい一冊です。(も)
みのまわりのできごと
『アパートのひとたち』
エイナット・ツァルファティ/作 光村教育図書(2021/1) 1,650円
7階建てのアパートに住む女の子。自分たちの住む部屋以外の6つの部屋には、いったいどんな人が住んでいるんだろう?ドアの雰囲気、ドアの前に置かれているもの、聞こえてくる音、漏れ出るかおりなどから、住んでいる人たちを想像してみます。泥棒一家、吸血鬼、それともサーカスの家族…?女の子が想像する部屋の中は、色鮮やかで魅力的な世界です。細部まで描きこまれており、ページをめくるたびに驚かされるはず。(ちなみに、女の子と家族が暮らすのはどんな部屋でしょう?読んでみてのお楽しみ。)イスラエルの絵本作家エイナット・ツァルファティさんが描いたこの絵本は、世界15以上の言語で翻訳され世界中で親しまれています。(も)
『お菓子はすごい! パティシエが先生!小学生から使える、子どものためのはじめてのお菓子の本』
菅又亮輔(リョウラ)、捧 雄介(パティスリー ユウ ササゲ)、音羽 明日香(オトワレストラン)、笠原将弘(賛否両論) 柴田書店(2021/03)1,760円
この本を出版した柴田書店は、プロ向けの専門料理出版社として、数多くの食に関する本を出版してきました。そんな柴田書店が2019年に発売した『料理はすごい!』そして2020年に続編として発売した本作『お菓子はすごい!』は、なんと子どものための料理の本だったのです。子ども向けと言ってもあなどるなかれ。大人顔負けの、作りごたえのあるレシピが満載の一冊。作る工程だけではなく、料理の楽しみかたや魅力がたっぷりとつまっているので、お菓子作りに挑戦してみてください!(も)
『ぱくぱくはんぶん』
渡辺鉄太/ぶん 南伸坊/え 福音館書店(2021/02)990円
ケーキを焼いたおばあさん。「半分残しておいてね」と、おじいさんと動物たちに言ってでかけていきました。それではと、おじいさんがまず半分食べます。次に犬がその半分、猫がその半分…果たして最後に残ったケーキは、おばあさんが帰ってから食べようと思っている「半分」と同じ大きさでしょうか‥?少しハラハラしてしまいますが、南伸坊さんのゆるくてかわいいな挿絵のおかげで、思わずくすりと笑ってしまいそうになります。ことばあそびでもあり、算数のようでもある、楽しい絵本です。(も)
『ドーナツのあなのはなし』
パット・ミラー/文 ヴィンセント・X・キルシュ/絵 廣済堂あかつき(2019/06)1,760円
身の回りのものには、みな、それぞれに歴史があります。誰が発明したのか伝わっていないものも多い中で、ドーナツには立派な記録がありました。発明したのは当時、帆船のコックの助手だった16歳のハンソン・グレゴリー。穴を開ける工夫があっと言う間に広まった経緯や、船乗り特有のホラ話、船長にまで出世して長寿を全うしたハンソンのその後、さらにはドーナツの穴の発明者をめぐって法廷闘争にまでなったエピソードまで、コンパクトな中に薀蓄満載です。この本を読んだ後は、ドーナツを食べるたびに話題になるでしょう。ぜひ、お子さんと一緒に楽しんでください。(と)
『すきなことにがてなこと』
新井洋行/作 嶽まいこ/絵 くもん出版(2021/02)1,540円
誰にでも、好きなことがあり、苦手なことがあります。私でいうならば、絵を描くことは大好きですが、体育のような体を動かすことはとても苦手です。跳び箱が飛べない、逆上がりができない…体育の授業があるたびに、ゆううつで、緊張して、逃げ出したくなっていました。作者である新井洋行さんは、この本について、“「にがてなこと」にとらわれすぎないこと、「すきなこと」も「にがてなこと」も当たり前にある自分をうけいれていくことも、大切だと伝えたいのです“(くもん出版「絵本のたから箱」作者のことばより)と書かれていました。子どものころ、この絵本が身近にあったなら、きっと私の大事なお守りになったはずです。(も)
『おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで』
おかだだいすけ/文 遠藤宏/写真 岩崎書店(2021/02)1,760円
魚を描いてください。と言われたとき、多くの人たちは、横を向いた魚を描くのではないでしょうか。お刺身や焼き魚を日々食し身近なはずの魚や生き物の体や仕組みについて、思った以上に知らないことに驚きます。この写真絵本に登場する寿司職人の岡田大介さんは、寿司を握るだけではなく、食材となる生き物たちを五感で確かめるため自ら生産地に赴きます。それだけではありません。魚の特徴をお客さんに伝えるため、さまざまな角度から写真を撮り、ブログで伝えます。「私たちが、たくさんのいのちでできていること」。当たり前のようで、当たり前でないことを、まっすぐと伝えてくれる写真絵本です。(も)
『いぬとふるさと』
鈴木邦弘/絵・文 旬報社(2021/03)1,540円
あたたかな絵柄と、一見のどかな風景とは裏腹に、原発事故から10年になろうとする福島の現実を描いた絵本です。作者は震災後何度も現地に足を運び、その一方で埼玉の自宅近くで拾った犬を、「福島から避難した人に置き去りにされた」と推測して引き取りました。その犬を連れてひと気のなくなった帰還困難区域を訪ね、記録を残そうとしています。長らく放置されてきた廃屋も、オリンピックを機に撤去が進み、その存在すらなかったことになりつつある今。巻末の解説と合わせて、高学年にこそ手にとってもらいたい一冊です。(と)
『空想科学「理科」読本 粒子・生命編』
柳田理科雄/作 NOEYEBROW/絵 講談社青い鳥文庫(2021/04)770円
『進撃の巨人』の巨人は死ぬと蒸気を上げて消えるのはどうしてか? 「アナと雪の女王」のエルサと『ONE PIECE』の青キジ。氷結能力が高いのはどちらか? など、中学一年生で学ぶ「理科」の基礎を、漫画やアニメを手掛かりに学ぶことができるシリーズです。作者の柳田理科雄さんいわく、理科は「きっかけ」をつかむまでが難しい、だからこの本を入り口にきっかけをつくることをしたかったとのこと。中学一年生からの理科が題材ですが、小学校高学年からならチャレンジできるはず。懐かしいアニメも題材になっているので、大人の方も楽しめます。同時刊行された『空想科学「理科」読本 エネルギー・地球編』もおすすめです。(も)
『科学者の目』
かこさとし/文・絵 童心社 (2019/07)1,540円
「だるまちゃん」シリーズなどが長く愛読されているかこさとしが、小学校高学年以上を対象に新聞に連載した伝記シリーズです。会社勤めの技術者だった著者による人選と解説は的確で、発表から半世紀近くたっても古びることはありません。著者自身による科学者の肖像画も、それぞれの人物像を彷彿とさせます。古代ギリシアから昭和の日本まで、女性2名を含む41名の科学者が紹介されています。大正2年(1913)に東北帝国大学に国内初の「大学生」として入学した三人の女性の一人である丹下ウメを取り上げているのは、当時の子ども向けの伝記としては画期的だったことでしょう。丹下は女性として日本で初めての農学博士となり、日本女子大学で長年後進の指導にあたりました。日本にはキュリー夫人のような女性の科学者はいないのですか、という読者の質問に答えて書かれたものです。(と)
『気温が1度上がると、どうなるの? 地球の未来を考える 気候変動のしくみ』
クリスティーナ・シャルマッハー・シュライバー/文
マリアン,シュテファニー/絵 西村書店(2021/02)2,090円
地球温暖化による影響をカラーイラストでわかりやすく解説します。温暖化の仕組みや私たちの日常生活がもたらす影響、一人から始められる取り組みなどが具体的に示されています。小学生にもわかる表現で書かれていますが、将来、最も影響を被るはずの若い人々こそが真剣に考えなければならないことを伝えています。親子で読んで、今できることを話し合う機会にしていただきたい一冊です。(と)
『7年目のランドセル ランドセルは海を越えて、アフガニスタンで始まる新学期』
内堀タケシ/写真・文 国土社(2020/06)2,200円
小学校の6年間、子どもたちと生活を共にしてきたランドセルは、思い出の詰まった宝物でしょう。卒業するともはや出番はなくなってしまいますが、丁寧に作られたランドセルは、たいていまだ使用可能です。そこで、そのようなランドセルをアフガニスタンに送る活動があります。長年の紛争で疲弊した国土で、それでも子どもたちは未来を見つめています。子どもたちの素晴らしい笑顔と、戦争が日常となってしまった風景の落差が胸を打つ写真絵本です。ランドセルの2回目の役目を通して、日本の小学生にも、学ぶことの大切さや平和の尊さを感じ取ってほしいと思います。八戸市内の小学校で使われている4年生の国語の教科書(光村図書)に掲載されている「ランドセルは海を越えて」の続編です。(と)
いきもののはなし
『わたしたち、海でヘンタイするんです。海のいきもののびっくり生態図鑑』
鈴木香里武/作 友永たろ/絵 世界文化社(2019/11)
小さなクリオネから大きなウツボのような魚まで、様々な海の生物を取り上げて生態を解説する図鑑。子どもから大人になるときに体のつくりが変わるヘンタイ(変態)、姿が変わるヘンシン(変身)、そしてとても変わった姿をしたヘンテコな生き物と、「変さ」にこだわった紹介で、思わず引き込まれます。ページの隅にはパラパラまんが、巻末には各地の水族館情報が掲載され、著者得意の岸壁採取の方法も紹介されているという充実ぶり。子どもから大人まで、それぞれに楽しめる一冊です。(と)
『うしとざん』
高畠那生/作 小学館(2020/12)1,540円
もはや、あらすじを説明するほうが野暮なのかもしれません。まずは開いてみてほしいです。高畠純さんの絵本はいつだって自由でユーモラスにあふれているのですが、『うしとざん』は、まさにその真骨頂。何も考えず、のどかなところを散歩しているような気分になれる絵本です。何も考えたくないときに、そっと開くのがおすすめです。しっかり脱力できます。(第68回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞)(も)
『ドラゴンのお医者さんジョーン・プロクター は虫類を愛した女性(世界をみちびいた知られざる女性たち1)』
パトリシア・バルデス/文 フェリシタ・サラ/絵 岩崎書店(2019/05 )1,760円
病弱だった少女時代、ジョーンにとって最大の楽しみは爬虫類の飼育でした。わからないことがあるとロンドン自然史博物館に通って教えをこい、学校を卒業すると博物館に助手として就職します。女性が大学教育を受けることは稀な時代でした。しかし、第一次大戦が始まると、男性が不在の間に女性の社会進出が進みます。ジョーンも、現場で培った学識を買われてロンドン動物園の新しい爬虫類館の責任者に抜擢されました。そして、それまでほとんど生態の知られていなかった大型爬虫類コモドドラゴンの飼育に成功し、学会でその成果を認められるまでになります。女性動物学者の先駆けとなったジョーン・プロクターの伝記は、子どもの頃の興味を育むことの大切さを示しています。(と)
『ちっちゃな生きものたち ミミズ』
スージー・ウィリアムズ/作 ハンナ・トルソン/絵 化学同人(2021/01)1,650円
低学年向けに身近な小さい生き物を紹介するシリーズから。シンプルで親しみやすいイラストながら、難しい言葉には説明をつけつつ、ひらがなで書かれた解説は本格的です。地面の下でのミミズの生態と、小さい生き物ながら自然界で果たしている大事な役割が描かれています。さらに、より詳しくミミズを観察したい人のために、ミミズの飼い方も説明されているので、興味を持ったお子さんと一緒に挑戦してみることもできます。(と)
『かえるのごほうび 絵巻「鳥獣人物戯画」より 新装版』
木島始/さく 梶山俊夫/レイアウト 福音館書店(2021/03)1,540円
平安時代に描かれた日本最古の絵本と言われている「鳥獣戯画」ですが、あらためてじっくり見てみると、はるか昔に描かれたとは思えないほど、生き生きと動物たちが動き回っています。ですがこの「鳥獣戯画」、継ぎはぎも多く誰が何のために描いたどんな話なのかはよくわからないそう。そこに詩人である木島始さんが、物語として楽しめるようにことばをつけました。はるか昔の絵物語、今を生きる子どもたちにも楽しんでもらいたいです。(も)
『われから かいそうのもりにすむちいさないきもの 海のナンジャコリャーズ 1』
青木優和/文 畑中富美子/絵 仮説社(2019/03)1,980円
ワレカラは海藻の上などに生息する甲殻類の一種です。不思議な名前は、1000年くらい昔からある、と説明されていますが、実際に『古今和歌集』や『枕草子』にも登場する由緒正しい和名です。1センチほどから大きいものでも数センチという大きさですが、世界中の海に多くの種類が生息しています。この絵本はイラストで親子が海に潜って海藻の上にいるワレカラを見つける様子を描きながら、この小さな生き物の生態を紹介。さらに、日本の近海で見つけることができる代表的な種類が図解で並び、見分け方のコツも教えてくれます。拡大して描かれた姿にはなかなかインパクトがあり、実物を探してみたくなること請け合いです。(と)
『フシギなさかな ヒメタツのひみつ』
尾崎たまき/写真・文 新日本出版社(2019/05)1,650円
ヒメタツはタツノオトシゴのなかまで、水俣湾に生息しています。これは、汚染から復活し豊かさを取り戻した海で、小さなヒメタツの不思議な生態を収めた写真絵本。春の浅い海の底では、多くの生き物がそれぞれの方法で繁殖します。きびしい生存競争を生きぬくために、海藻に擬態したり、オスが子育てするヒメタツの様子が美しい写真でされています。(と)
『おなかの花園 きみのおなかにひそむ不思議な世界マイクロバイオームをめぐる冒険』
ケイティ・ブロスナン/作 滝本安里/訳 化学同人 (2020/12)2,090円
最近話題の腸内フローラをわかりやすく紹介した科学絵本です。食べたものがどのようにして栄養となり、残りはどのような道をたどるのかだけでなく、病気と闘う仕組みである免疫のことも、それがどのようにお腹の中と関係があるか説明されています。カラフルで擬人化された絵柄のおかげで、バクテリアにも親しみが湧いてくるようです。体の仕組みや健康のことに関心を持ち始めたお子さんだけでなく、大人にとっても、新たに腸内フローラを知るきっかけにふさわしい一冊です。(と)
『クジラが歩いていたころ 動物たちのおどろくべき進化の旅』
ドゥーガル・ディクソン/作 ハンナ・ベイリー/絵 化学同人(2020/10)2,310円
魚が陸地に上がり地上に現れたころから現代の人類につながる背骨のある動物の進化を、様々なエピソードから解説しています。化石からわかること、なぜそのような姿になったのか、その当時の地球の気候、陸上や海中の様子といった環境との関連などが紹介されます。全体を通して、地球の歴史や進化の仕組みなどが理解できるようになっています。さらには、進化は続いていること、現在は大量絶滅期の最中であることが述べられ、たかだか30万年ほど前に現れたホモ・サピエンスが地球上の生物に与える影響の大きさを想起させられます。化石から復元された恐竜や大型哺乳類などが現代の種と比較して紹介されていて、絶滅した生物の姿がイメージしやすく工夫されています。(と)
『しぜんのおくりもの』
イザベル・シムレール/文・絵 石津ちひろ/訳 岩波書店(2021/02)2,750円
『あおのじかん』や、『はくぶつかんのよる』(どちらも岩波書店)など、生き物を色鮮やかに描いてきた、イザベル・シムレールさんの新刊です。今回は、シムレールさんが心惹かれた動物たちを描いたフルカラーのスケッチ集。96ページというたっぷりのボリュームは、絵本でありながら図鑑のようでもあります。本文に使われている用紙は、三菱製紙八戸工場で作られた「ダイヤバルキー」という紙です。深みある印刷仕上がりが実現できるこの用紙は、シムレールさんの絵との相性もばっちりです。(も)
選者プロフィール
戸田山みどり(とだやま・みどり)
東京大学文学部卒、名古屋大学大学院博士課程修了、博士(学術:国際コミュニケーション)。
おもに英語圏の児童文学と絵本に関心がある。愛知県立大学等の非常勤講師を経て、2001年より八戸高専に勤務。
英語の授業や日本語での論文の書き方指導も担当。学生と一緒に絵本を使った遊びの会やクリスマス絵本の展示を毎年行っている。
演劇部顧問として、子どもと演劇も研究テーマの1つになりつつある。
森花子(もり・はなこ)
八戸ブックセンター企画運営専門員。八戸ブックセンターでは、おもにギャラリーや子どもの本に関することを担当。イラストレーターとしても活動しており、ブックリスト「本はともだち」のイラストも担当している。
【おまけ】ブックリスト作成記念として、ぬりえを作りました。以下よりダウンロードいただけますので、ぜひぬってみてください!