【マイブック推進事業】ブックリスト「本はともだち2024」 保護者の方向けおすすめコメント
2024.06.21
八戸市内の小学生に、本が購入できるブッククーポン券を配布する「マイブック推進事業」。2014年から始まり、今年で10年目を迎えます。
2017年からは、クーポンとともに、おすすめブックリスト「本はともだち」を配布。小学生のみなさんに、「読んでみたいなあ」と思ってもらえるようなリスト作りをめざし、選書やレイアウトをしています。
八戸市マイブック推進事業 おすすめ図書リスト「本はともだち」について
八戸市がマイブック・クーポンとあわせて配布している「本はともだち」では、クーポンの趣旨に沿って、次のような基準でお勧めする図書を選んでいます。
まず、子どもたちが自分で選べるように、書店で見つけられるものであることが重要です。素晴らしい図書、読んでほしい本でも、品切れになっている場合は店頭に並ぶことはありません。クーポン配布の時期に入荷が可能であるかどうかを確認して紹介するようにしています。
また、できればずっと大事にしてもらえるように、子どもの本としてすぐれていると自信を持って言える本を選んでいます。
「子どもの本としてすぐれている」と言える基準は一つではありません。たとえば、
読むと幸せな気分になれる本
情報がつまっていて、読むたびに発見がある本
繰り返し読むうちに、そこに込められた意味が違って見えたり広がって見えたりする物語
というように、さまざまな「よさ」があります。そして、それぞれの子どもにとっても、必要とされる本は異なります。そのため、できるだけさまざまな分野やジャンルから選ぶようにしています。
また、このリストでは、とてもよく知られている名作ではなく、どちらかといえば、新しい、これから名作として読み継がれていくかもしれない本を選んでいます。子どもたちも現代の社会に生きているのであり、むしろ未来に向かって成長しているからです。
自分だけの本というのは特別な存在です。常に手元にあることで繰り返し手にとりたくなる本が見つかりますように。その一冊が、もしかすると人生を変えるかもしれません。子どもの時にであう本には、それだけの力があるからです。 (戸田山)
★ジャンル:絵本の形式のものと、単行本形式で分けてあります
単行本は創作物語と事実に即した伝記・事典・ノンフィクションの2種類に分けてあります。
絵本 創作 ノンフィクション
★学年の目安:お子さんに紹介する際のだいたいの学年の目安です
実際には、お子さんの興味や取り組みやすさは個人差がありますので、あくまでも目安です。
また、低学年から楽しめるものも、学年が上がったり、り大人の目から見ると、さらなる面白さを発見することができます。
1年生〜 2年生〜 3-4年生〜 5-6年生〜
ものがたりをたのしもう!(赤のページ)
『こしたんたん』
りとうようい/作 絵本館 1540円
絵本 1年生〜
虎視眈々とは、虎が鋭い目つきで獲物を狙うように、慎重に機会をうかがっていること。この絵本の表紙には、ばっちり正面を見据えたトラのアップが。これはたいへんなことになりそうです。ページをめくると、トラはそろーりそろりと森の空き地の水場に近づいています。水場には、ウサギ、シカ、イノシシと、つぎつぎにいろいろな動物たちがやってきて、のんびり水を飲み始めます。どうやらトラには気がついていないようです。トラは、近い未来のことを考えるとたまりません。おいしそうな獲物が、よりどりみどりなのですから。しかし、そうは問屋がおろしません。こういうのを「とらぬたぬきのかわざんよう」と言ったら、まぎらわしいでしょうか? トラや動物たちの表情がとっても楽しい絵本です。漢字四字熟語に興味をもってもらう機会にもなるかもしれませんね。
『がっこうに まにあわない』
ザ・キャビンカンパニー/作・絵 あかね書房 1650円
絵本 1年生〜
走る男の子にSLやワニ、そして怪しげな植物。時計の文字盤が不気味に8時を指しています。この表紙はなんだ。学校にまにあわないと、どうなるんだ。
ページをめくると、ひたすら走っている子ども。7:47分に玄関を飛び出し、畑の間の道を走り、ワニが隠れていそうなほど大きな水たまりを越え、散歩する犬たちをやり過ごし、歩道橋に悩まされ、そして踏切。長い長い列車。読者の方も、焦ってきます。8:00までに学校につかなければならないようですが、いったいぜんたい、何が待っているのでしょう、間に合うかしら、間に合わなかったらどうなるの?
焦っているときには、こんなふうに思えるよね。のしかかるような障害物は男の子の気持ちの中のもの。でも、臨場感あふれる迫力満点の画面のおかげで、読者もまた、一緒に走っているような気がします。続々と独創的な作品を生み出すキャビン・カンパニーの一作。
『あめ Rain or Candy?』
二宮由紀子/作 高畠純/絵 理論社 1650円
絵本 3-4年生〜
日本語の文にそれぞれ英語の対訳がついていますが、英語は補足説明のようなものです。ほとんどの場面で絵を見れば何が起きているのか伝わってきます。この絵本のポイントは、日本語の文だけでは何が起きているのか曖昧であること。うまく音に出すことができれば、耳で聞くだけで伝わるような同音異義文で書かれているのです。例えば、最初のページは「ややっ あめが ふってきたぞ」。同じ文が左右に書かれていますが、左のページでは紳士のスタイルをしたクマが傘を広げ、右のページではブタのカップルが空から降ってくるキャンディを嬉々としてつかみ取っています。なので、英語は左が”Oh, it’s raining!”、右が”What? Candies are falling.” この絵本の素晴らしいところは、このスタイルが最後まで続くことです。つまり、左側のページではクマを主人公とした世界が、右側のページではブタのカップルを主人公とした世界が、並行していきます。そして、どれも同音異義文がついてくるのです! ことばっておもしろいなあ、と思わせる快作(怪作?)です。
文はナンセンスなお話づくりで定評のある二宮由紀子さん、この世界を絵で表す難題をやってのけたのは、高畠純さん。声に出してお互いに読み合うというのが最も適切な楽しみ方でしょう。子どもから大人まで、心ゆくまで楽しめます。
『キツネザルのあったかいセーター』
ウルリカ・ケステレ/作・絵 石井登志子/訳 徳間書店 1980円
絵本 2年生〜
南の島マダガスカルからワオキツネザルのオットーが北の国にやってきます。オオヤマネコのリーサとクマのニルスとの再会です。さっそくオットーは神秘的なオーロラの絵を野外で描き始めますが、あまりの寒さに風邪をひいてしまいます。南国育ちのキツネザルの毛皮は南国仕様なので、寒さには弱いのです。そこでリーサとニルスはオットーにセーターを贈ることを思いつきます。自分たちの毛をすいて、集まった毛を糸につむいで、色に染めて、それを編みます。ひとつひとつの作業を経てセーターになっていく様子がよくわかります。
作者のウルリケ・ケステレはスウェーデンで活躍するアーティスト。雪をかぶった山やオーロラ、クジラも泳ぐ北の海の色合いなどの自然の風物や、サウナや大きな薪ストーブのある暖かい室内の様子が、北欧らしい独特のスタイルで描かれています。
『ドラねこまじんのボタン (ミッチの道ばたコレクション)』
如月かずさ/作 コマツシンヤ/絵 偕成社 1320円
創作 3-4年生〜
ミッチとお父さんが図書館で借りてきた本に載っている魔法の呪文を唱えてみると、ねこの顔の形のボタンが降ってきます。お父さんは、ボタンが一つなくなってしまっていたミッチのシャツに、そのねこのボタンをつけてくれました。ところが、翌朝、シャツを着ようとしたときに、シャツについていたアイスクリームの模様がなくなっていることに気がついて… ジャーン。ボタンから青い色をした「ドラねこまじん」が現れます。模様のアイスクリームを食べて力を取り戻した魔神は、ミッチにもっとたくさんの食料を求めます。お父さんのお手伝いをしたいミッチは、お父さんの願いをかなえてもらうために、ドラねこまじんの食べられるものを求めて奔走するのですが…。ニンマリとした顔の青いねこは、なんとなく例の耳のない猫型ロボットを連想させますが、そう思って読んでいると足もとをすくわれます。お父さんと男の子のコンビが不思議な出来事を共有する、というのは最近のパターンでしょうか。絵本の次に出会う最初のお話の本にぴったりの、ちょっとドキドキする展開です。
『図書館のぬいぐるみかします わたしのいるところ』
シンシア・ロード/作 ステファニー・グラエギン/絵 田中奈津子/訳 ポプラ社 1430円
創作 3-4年生〜
自分の大事にしているぬいぐるみを分身にして、図書館にお泊まりさせる、という「ぬいぐるみのお泊まり会」はアメリカ合衆国の公共図書館が始め、10年ほど前から日本でも広がってきています。このお話の舞台は、逆に、図書館在住のぬいぐるみやお人形が、図書と一緒に貸し出されるというサービス。日本でも高山市立図書館では「おもちゃの貸出」として実施されています。
このお話の主人公は、ぬいぐるみではなく女の子の姿をしたお人形アイビー。アンの「ともだち」として楽しい日々を過ごしましたが、箱に入れられて長いあいだ屋根裏部屋にしまわれていました。ある日、久しぶりに外に出てみると、そこは図書館。貸出用の人形の棚に配置されたのです。アイビーは、アンに裏切られたような気持ちになって、悲しくなります。知らない子どもの家に借りられていくことは気が進みません。でも、子どもたちのいろいろな事情を知ると、限られた期間でも寄り添っていることが自分の役割だ、と気づきます。「わすれられるって、もういちど見つけてもらえるってことよね」というアイビーのコメントは前向きです。ブック・フレンドと呼ばれる図書館のお人形の物語は、シリーズの2作目『図書館のぬいぐるみかします はじめてのおとまり会』が2024年7月に出版されています。
『ひみつだけど、話します』
堀川理万子/作・絵 あかね書房 1320円
創作 3-4年生〜
ある小学校の3組のお友だち、足立さん、小川さん、内海さん、上田さん(このクラスでは男の子も女の子も、さんづけです)。1人のお話の中に次のお友だちが登場し、最後に全員が揃う連作形式。電車を見るのが好きな足立さん、クラスで一番小柄であることが気になっている小川さん、大好きなおじいちゃんが入院してしまった内海さん、学校が嫌いな上田さん。4人、それぞれに気になることを抱えていますが、外でひょっこり会うと、学校では言わないようなことをおしえてくれたりするんです。それぞれの子どもたちには、それぞれの、ちょっと嫌なことや気にかかっていることがあり、でも、それは誰かに話してみると、なんとなく気が晴れたりして、そうやって毎日が少しずつ新しくなっていく。子どもたちは、大人の知らないところで、いつの間にかお友だちの力を借りながら、世界と向き合っているんですね。お子さんがこの本を読んでいるのを見つけたら、お家の方は、できればお子さんには内緒で読んでください。
もともと画家であり、絵本作品から出発された堀川理万子さん自身による味わい深い挿絵が、物語世界を親しみ深いものにしています。
『ねこもおでかけ』
朽木祥/作 高橋和枝/絵 講談社 1650円
創作 3-4年生〜
この頃は家の外でネコを見かける機会が減りました。とくにまちなかでは安全のために室内で飼う家庭が増えていることが理由です。それでも、地域によっては、まだ自由に行き来するネコを見かけることもあります。外で見かけるネコは、何か用事があるように、すばやく移動しているように見えませんか?
小学生の信ちゃんの家には、ラブラドール犬のダンとトラねこのトラノスケがいます。トラノスケは、まだほんの子ねこだったときに、公園で見つけたねこ。散歩中のダンの前に飛び出してきたのです。順調に大きくなったトラノスケは、庭から外に冒険に出かけるようになります。信ちゃんはトラノスケがどこで過ごしているのかが気になって、追いかけてみることに。ねこにもねこの事情があるのね。外歩きのねこが信ちゃんの世界もちょっと広げてくれます。
昨年出版された、現代の広島を舞台にして原爆の記憶を伝える『かげふみ』(光村図書出版)の評価の高い朽木祥さんですが、こちらは、作家のユーモラスな側面が楽しめるほのぼのとした作品です。
『ちょっとこわいメモ』
北野勇作/著 森本晃司/画 福音館書店 1430円
創作 3-4年生〜
アニメ作家の描く挿絵が印象的な表紙、間にメモ帳のページが挟まった装丁が特徴的な物語の本。主人公の男の子がこわがりなのも無理がないくらい、不思議がいっぱいの日常がユーモラスに描かれています。いろいろな怪異現象が描かれていますが、もしかするといちばん不思議なのは、男の子の父親かもしれません。お父さん世代か、若い祖父の世代が読むと、昔のテレビ番組を思い出して懐かしくなるのではないかと思うシーンが展開していきます。親子で楽しめる、ちょっとだけこわい怪談。
『放課後ミステリクラブ1 金魚の泳ぐプール事件』
知念実希人/作 Gurin./絵 ライツ社 1210円
創作 3-4年生〜
今年の本屋大賞で、この作品が候補10作の中に初めて児童書として入ったということで話題になりました。「本はともだち」に選んだのは、その発表よりも前のことですので、本屋大賞に合わせたわけではありませんが、面白さが保証された感があります。
作者の知念実希人氏は、今最も注目されているミステリ作家とも呼ばれ、すでに多数の作品がベストセラーになっているだけではなく、ドラマ化もされています。そのような人気作家が、子どもたちにもミステリの面白さを知ってほしい、という願いから手掛けたのがこの「放課後ミステリクラブ」シリーズ。主人公の小学生たちや周囲の大人たちがイキイキと描かれているだけでなく、子どもたちを読者としていることもあって、解決される謎(最初はじゅうぶん不思議に見えますが)も、人間の恐ろしい一面を描くようなものではありません。巻末には推理小説オタクの天馬くんご推薦の推理小説が紹介されていて、ミステリの世界がさらに広がるようになっています。
『夏のサンタクロース: フィンランドのお話集』
アンニ・スヴァン/作 ルドルフ・コイヴ/絵 古市真由美/訳 岩波書店 891円
創作 3-4年生〜
フィンランドというと連想されるものはなんでしょう? マリメッコやイッタラなどの色鮮やかで絶妙なシンプルさが魅力的な北欧デザインでしょうか? キャラクターグッズでも人気のムーミン・シリーズでしょうか? それとも、トナカイと一緒にどこか北極近くに住んでいるというサンタクロースでしょうか? この『夏のサンタクロース』は100年ほど前にフィンランド語で書かれた童話集(ちなみにムーミン・シリーズはスウェーデン語で書かれました)。作者はフィンランドの「童話の女王」と呼ばれたアンニ・スヴァンです。フィンランドは北欧に位置しますが、大国ロシアとスウェーデンに挟まれて、長らく独立から遠い国でした。言語も独特で、伝えられてきた魔物や子どもたちが活躍する物語にも独自のものがあります。この創作物語集ではさらに、厳しい自然を背景に、現代的な視点も加わって、物語の主人公たちが毅然と試練に立ち向かっていく姿が、読むものに訴えてきます。1930年代の版で使用されたフィンランドの画家による挿絵も、物語の雰囲気をよく伝えています。
『ブックキャット ネコのないしょの仕事!』
ポリー・フェイバー/作 クララ・ヴリアミー/絵 長友恵子/訳 徳間書店 1870円
創作 3-4年生〜
これは「ブックキャット」と呼ばれる職についたネコを主人公にしたユニークな戦争文学です。黒ネコのモーガンは、第二次世界大戦中の空襲下のロンドンに生まれ、厳しいノラネコ生活を送っているときにふとしたきっかけで出版社の飼いネコとなります。モーガンを飼うことにしたのは、その出版社で働くエリオットさんでした。つまり、ミュージカル「キャッツ」の原作者、T. S. エリオットその人だったのです。モーガンが、貴重な紙をネズミから守ってくれた、というのが採用の理由でした。しかも、エリオットさんは、モーガンには不思議な才能がある、と思います。モーガンが足跡をつけた箇所は、原稿の中でも不要な部分だったのです。ということで、ブックキャットの仕事は単にネズミから紙を守るだけではありません。さりげなく作家を励まし、指導する、という重要な任務が加わったのでした。
その間も戦争は続きます。ロンドンでは実に1940年から45年まで6年にわたってドイツ軍の空爆が続きました。近所のネコたちの間で信頼を勝ち得るようになったモーガンは、日に日に激しくなる空襲から子ネコたちを疎開させる方法を思いつきます。出版社に飼われていたネコの実話と詩人の空想から生まれた「キャッツ」(原作は連作詩。翻訳は数種類入手可能です)の世界が結びついて、このユニークな作品が生まれました。作者ポリー・フェイバーは、まさしくモーガンの飼われていた出版社フェイバー・アンド・フェイバー社創業者の孫。作画のクララ・ヴリアミーは、フェイバーと組んだ「マンゴーとバクのバンバン」のシリーズが徳間書店から翻訳出版されています。
『ベアトリスの予言』
ケイト・ディカミロ/作 ソフィー・ブラッコール/絵 宮下嶺夫/訳 評論社 1980円
創作 5-6年生〜
ヨーロッパ中世を彷彿とさせる世界で迫害される女性たち。その世界では、女性や貧しい人々には読み書きが禁じられています。そのような世界を変えるような少女が現れるという予言をしてしまった者と、予言を恐れて少女を亡き者としようとする者。裏で糸を引いているのは誰か。読み書きのできるベアトリスが現れたことで、世界は変わるのか…。最近の海外の小説は、女の子の冒険を描く傾向がありますが、この作品も女の子や大人の女性(と、メスのヤギ)の強さが印象的です。あたたかみのある絵柄に中世の写本聖書のような雰囲気が重なって、挿絵・装丁も魅力的です。
作者のケイト・ディカミロは『ねずみの騎士デスペローの物語』(ポプラ社 2004年。アニメ化されDVDが発売されています)と『空飛ぶリスとひねくれ屋のフローラ』(徳間書店 2016年)で、二度のニューベリー賞を受賞したアメリカの作家。挿絵のソフィー・ブラッコールは『プーさんとであった日―世界でいちばんゆうめいなクマのほんとうにあったお話―』(評論社 2016年)と『おーい、こちら灯台』(評論社 2019年)で二度のコールデコット賞を受賞した絵本作家です。
『ここではない、どこか遠くへ』
本田有明/作 みなはむ/絵 小峰書店 1540円
創作 5-6年生〜
北陸の小都市から、行ってみたい別の場所へどうやって旅行するか。小学6年生にとって子どもたちだけで遠出をすることには、さまざまなハードルがあります。けれどもここに集まった4人の子どもたちは、それぞれに家族との間に葛藤を抱えていて、希望をかなえるために、そんな家族に相談することはできません。4人分の費用をどうするか。行ってみたい場所、御宿、松島、富士山、名古屋をどうやって3泊4日でまわるか。宿泊費をかけずに済ますには、どうやって切り抜けるか。課題を一つ一つ解決し、4人は決行に及びます。家族にはサマーキャンプに参加するという言い訳をしていますが、その言い訳を鵜呑みにするような家族だからこそ、本当のことを言えないのでしょうね。4人の子どもたちそれぞれが、どうしても、いま見たかったものがなんだったのか。そこに行ってみて、何が変わったのか。たぶん、一番大事だったのは、そうやって一歩踏み出してみることで、少しばかり外の世界を知った、というその経験だったのでしょう。
人と人とのつながり(あおのページ)
『なつやすみ』
麻生知子/作 福音館書店 1650円
絵本 1年生〜
こうたくん一家の夏休みの1日を描く絵本。表紙の絵はちゃぶ台を囲む4人を上から見た図です。描かれているのはスイカに麦茶、うちわに扇風機、と、ちょっと懐かしい日常風景。でも、ティッシュの箱や消しゴムの柄はどこかで見たような? こうたくんが広げている絵日記帖には、なにやら細かく文字も書かれています。どうやら、明日、ゆうこちゃんたちが遊びに来るようです。そして、翌日、いとこのゆうこちゃんと弟、両親の一家が遊びにやってきます。一緒にプールに行ったり、神社のお祭りに行ったり。家の中やプール、神社の境内の屋台の並びが俯瞰で描かれていて、しかも細かいところまで描き込んであるので、絵を見ているだけでも毎回発見があります。ちなみに神社の名前は「渡鳥神社」、日本酒のラベルにも「渡鳥」。作者である麻生知子の画家としてのプロジェクトの名前からきているようです。
同じ作者による『こたつ』が先に出版されています。こちらは「こたつを囲むこうたくん一家4人を上から見た図」が表紙になっています。
『きょうはふっくらにくまんのひ』
メリッサ・イワイ/作 横山和江/訳 偕成社 1650円
絵本 3-4年生〜
女の子がせいろの蓋を持ち上げると、湯気が立ち上ってふっくらふくらんだ中華まんが顔を出します。柔らかい色彩の表紙に、期待もふくらみます! 表紙を開くと、そこは6階建てのアパートのようです。それぞれの階には、妙齢のご婦人たちが(つまり、おばあちゃん…)。 1階に住んでいるのが、表紙の女の子リリのおばあちゃん、ナイナイ。キッチンには炊飯器や青い模様の陶器が並び、飼い犬のキキはシバイヌのよう。東アジア的ですね。
さて、リリとナイナイは早速にくまんを作ります。手元もアップで描かれているので、どんなふうにして作るか、様子がよくわかります。ところが… いざ、にくまんを蒸すところで、肝心のキャベツを切らしていることに気がつきました。せいろにくっつかないようにするには、キャベツを下に敷かなければならないのです。そこで、リリはアパートの6階に住むバブシアにキャベツを借りにいきます。こんな時に限ってエレベーターは故障中。頑張って階段を上ってキャベツを借りることができましたが、今度はバブシアにお使いを頼まれて…。ということで、リリは階段を上ったり降りたりすることになります。それぞれの家で作られていたのは、すべて、中に具を詰めた郷土料理。最後は全員で食卓を囲みます。ポーランド、イタリア、メキシコ、ジャマイカ、レバノン、そして中国の家庭料理を紹介しながら、共通の食材でつながっていくところが興味深い多文化共生絵本です。著者はアジア系アメリカ人。作者自身の家族の思い出がつまっているようです。
『クイズにこたえてつくろう うどん』
田村孝介/写真 中山章子/監修・料理製作 ひさかたチャイルド 1430円
絵本 1年生〜
タイトルどおり、クイズ形式でうどんの材料や製法を読者である子どもたちと確認しながら、うどんの作り方を追っていきます。第1問:うどんの麺を作るのに必要なものはどれでしょう? 選択肢の中にはもちやパン粉、卵やバター、牛乳や砂糖も登場しますが、もちろん使うものは、小麦粉・塩・水の3種類だけ。ここから既に、子どもたちの「へえー」が聞こえてきそうです。粉に水を混ぜたり、こねたり、まとまった生地を踏んだりする工程は子どもたちにも参加してもらいましょう。最後に、ご当地うどんの地図がついています。東北地方では秋田県の稲庭うどんが有名ですね。麺の形になっていないのでうどんの仲間には入れてもらえませんでしたが、南部地方には昔から小麦を練って作る「ばっと」や「ひっつみ」があります。郷土料理にはいろいろあるのね、と会話がはずみそうです。
『どうぶつみずそうどう』
かじりみな子/作 偕成社 1650円
絵本 3-4年生〜
昔から農地の水の確保は重要な問題でした。とくに水田は豊かな水が前提で、ひでりにでもなれば直ちに死活問題になります。雨水だけでは不足なので、たいていの田んぼでは用水が引かれています。しかし、用水の水を公平に分配するのは難しいことで、各地で水争いが絶えなかったそうです。
この絵本では、その問題を解決した円筒分水の仕組みが紹介されています。登場するのはカエルやカメやイタチなど、動物の姿に仮託された農民たち。のどかな田園風景も、豊かな水があってこそ。そして、公平な分配方法の導入で、水問題が平和裡に解決されるようになったのは、実は昭和になってから、という後書きの解説を読むと、それ以前はもっと厳しい社会だったのだな、ということが伺えます。第二次世界大戦後にも各地で作られており、地域によっては観光資源として活用されています。青森県内にも現在6ヶ所の円筒分水があるようです。各地の円筒分水の情報は、その名も「円筒分水ドットコム」で得ることができます。円筒分水がどのような仕組みなのか、実際に作ってみると面白いかもしれませんね。
『とびきりおいしいおうちごはん~小学生からのたのしい料理~』
野村友里/著 小学館(小学館クリエイティブ) 1760円
ノンフィクション 5-6年生〜
表紙にはおいしそうなオムライスの絵。人は「食べたもの」でできていること、自分の手を使って自分の食べるものを作ることができること、と著者のメッセージは明確です。これは下ごしらえをしっかりすることで本格的な仕上がりの料理を作ることが目的の本なので、子どもの読者が対象でも最初から火を使います。気をつければ子どもでも上手に包丁が使えるようになります。食材がどこから来たのかを考えるコーナーもあります。基本の料理とはいえ、大人にとっても役に立つ情報が載せられていて、一家で有効に使えそう。手作りマヨネーズの作り方や皮から作る餃子など、作業そのものが楽しそうです。この本を参考に、お休みの日には家族で料理をすることが、すてきなイベントになりますね。
『ベイビーレボリューション』
浅井健一/文 奈良美智/絵 クレヨンハウス 1980円
絵本 3-4年生〜
ロック・ミュージシャン浅井健一さんが2005年に発表した”Baby Revolution” (楽曲はYouTubeで聴けます)の歌詞に、奈良美智さんの作品を組み合わせて作られた絵本。表紙のはいはいする赤ちゃんの鋭い目つきが象徴するように、戦争の愚かさを赤ちゃんの視点から告発するプロテスト・ソングです。初版は2019年ですが、ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルによるパレスチナへの攻撃などの紛争が続く中で、あらためて注目されています。昨年青森県立美術館で開催された奈良美智展でも、図録に並んで平積みになっていました。すべての理屈を抜きにして「子ども」の立場に立てば、戦争の愚かさは自明である、という本書の趣旨は、真っ当で明快であり、小学生にこそまっすぐに伝わるのではないかと思います。その気持ちを失わないように、手元に置いて繰り返し読みたい一冊です。
『ラッタくんとかみやまくん』
田中六大/作 ポプラ社 1540円
創作 3-4年生〜
4月、新しいクラスが始まります。担任の先生はやさしい先生かな、どんな子と同じクラスになるのかな。ラッタくんは緊張のあまり自己紹介で大きい声が出せませんでした。「すきなものはようかいとモンスター」と言い切るかみやまくんのことが気になります。授業中に話を聞いていないように見えるかみやまくんは、オリジナル妖怪の絵を描いたり、妖怪の手遊びを考案していたり。新学期から夏休みの前の日まで、ラッタくんとかみやまくんの日常が、柔らかい筆致のコマ割り漫画形式で展開していきます。最後のシーンでは、明日からの夏休みに期待がふくらむ、2人の気持ちが伝わってきます。
『わたしたちのケーキのわけかた』
キム・ヒョウン/さく おおたけきよみ/やく 偕成社 1650円
絵本 3-4年生〜
ホールのケーキを5人で分けるとしたらどうしたらよいのか。5人きょうだいにとって、毎日が「分け方の問題」に直面する現場です。いろいろなものがいろいろな方法で分けられます。1リットル入りの牛乳のように容易に5等分できるものもあれば、チキンのように複雑な形をしているものの場合は、抜け駆けもあり得ます(ただし、末っ子の特権のようです)。ところで、表紙のホールのケーキは上から二番目の女の子の誕生日ケーキのようでした。その当日、思いがけないことが起き、女の子は少しの間、両親を独り占めできることになります。もし、私が一人っ子だったら… きっと、今はできないいろいろなことができるでしょう。でも、と彼女は思います、みんなで分けあうのってすてきだな、と(そうは書いていないけれど)。分けっこの中に両親が入っていないことに気づくのは、もっと大きくなってからかもしれません。扉には「わたしたちの わりざんから いつも ぬけていた 父と母へ」という献辞が掲げられています。
『おばあちゃんのにわ』
ジョーダン・スコット/文 シドニー・スミス/絵 原田勝/訳 偕成社 1760円
絵本 3-4年生〜
「ぼく」とおばあちゃんの一緒に過ごして時間が描かれる絵本。おばあちゃんは男の子の一家とは別の家に住んでいますが、男の子は毎朝、学校に出かけるまでの時間をおばあちゃんの家で過ごしていました。おばあちゃんは庭で野菜を育てていて、収穫した野菜たっぷりの朝食を用意してくれます。移民だったおばあちゃんは、昔、食べるものにこと欠く経験をしたので、どんなものも粗末にしません。学校から帰ると、男の子とおばあちゃんは一緒に庭を歩きます。雨の日にはミミズを捕まえて、畑の土に放します。
文は、吃音を抱えた男の子を描いた『ぼくは川のように話す』と同じジョーダン・スコット。どちらの作品の主人公も作者自身の経験を反映しているということですから、この男の子は、あまり言葉を発することに自信を持てないでいるのでしょう。移民として英語圏にやってきたおばあちゃんも英語をあまり話せません。2人は、ことばを介さずに一緒にいることで、お互いに気持ちを伝え合っているのです。前作と同じく、絵を担当しているのはシドニー・スミス。庭にあふれる光や、主人公の気持ちを反映したような雨空が、控えめな文章の暗示する世界を余すところなく描き出しています。
『ぼくんちの震災日記』
佐々木ひとみ/作 本郷けい子/絵 新日本出版社 1650円
創作 3-4年生〜
東日本大震災から13年が経ちます。今の小学生にとっては、まだ生まれていない過去になりました。けれども、その後も各地で大地震や洪水などの災害が頻発し、わたしたちにとって防災はますます日常の課題になっています。とは言え、災害を直接経験した方達にとって、そのことを他者に伝えることは、そんなに簡単なことではない、と思います。震災の直後から、警鐘のために体験を伝えようとされている方々もいらっしゃいますが、大きなショックにより言葉を失う場合も少なくありません。災害当時子どもだった方たちはとくに、自分達の経験に向き合うことには時間がかかったことでしょう。
『ぼくんちの震災日記』の作者は、仙台で震災を経験されています。子どもとして被災されたわけではありませんが、ここには子どもたちの不安が的確に描かれています。思いもよらない事態に直面した時、いかに対処するか、また事前にどのような準備をしておくべきか、ノウハウの知識も重要ですが、人はどんな気持ちになるものかと想像してみることも必要ではないかと思います。言わば、「心の防災」としての疑似体験として、このような経験の伝承が必要な時代になってきているのでしょう。同じ太平洋沿岸部の住民として、子どもたちに伝えておきたい歴史です。
『夏に、ネコをさがして』
西田俊也/作 徳間書店 1870円
創作 5-6年生〜
6年生の佳斗は、夏休みに入って間もなく、急逝した祖母の住んでいた家に引っ越してきました。その辺りは、一世代前に開発された住宅地で、今や住民の高齢化が顕著な地域。母の通っていた小学校も廃校となっています。そこでは同年齢の子どもの姿を見かけないかわりにネコが目立ちます。佳斗の祖母もネコ、テンちゃんを飼っていました。気ままに外歩きをするネコでしたが、佳斗たちが転居してきて間も無く、テンちゃんが姿を見せなくなります。佳斗は炎天下の住宅地でネコを探すことになりました。
今までは祖母に会うためだけに来ていた土地を歩き回ることで、佳斗はいろいろな人に出会います。公園で行き合ったおばあさんは、昔自分の家で飼っていたネコと佳斗の説明するテンちゃんと区別がつきませんでした。そのおばあさんを世話する孫の蘭は、お母さんがタイの人。朝夕お婆さんと散歩している彼は、地域のネコの詳細を完全に把握している観察眼の持ち主でした。さまざまな人の協力を得て、佳斗はテンちゃんと再会します。いなくなったネコを見つけ出すまでの1週間ほどの間に格段に世界が広がる、夏休みの物語です。
『「ヒロシマ 消えたかぞく」のあしあと』
指田和/著 ポプラ社 1760円
ノンフィクション 5-6年生〜
著者指田和さんが広島平和記念資料館で目にした一連の家族写真。新着資料として展示されていた鈴木六郎さん一家の写真でした。そこに写っていたのは、広島市内で理髪店を営んでいた六郎さんが子どもたちや飼っていた犬やねこをうつした日常の写真。穏やかな生活の一コマです。けれでも1945年8月6日、その世界は一変します。資料館の壁に映し出されたのは、「この家族は 原爆で 全滅しました」という解説文でした。写真の中の穏やかな世界と、その残酷な事実の落差に衝撃を受けた指田さんは、一家の写真を構成して平和だった日々と、その一家を見舞った悲劇を紹介する絵本『ヒロシマ 消えた家族』を2019年に出版します。絵本は翌2020年の夏の読書感想文コンクール(第66回青少年読書感想文全国コンクール)小学校高学年の部の課題図書となりました。
絵本にすることで、家族のことを紹介することはできました。それでも、著者はその後も広島に通い、一家の消息をできる限りたどろうと取材を続けます。そしてまた、絵本を読んだ子どもたちとも、交流をはじめます。絵本では書ききれなかった、戦前の広島の状況、生き残った親戚や近所に住んでいた方との交流で分かったこと、そして何より、絵本には収録しきれなかった一家の様子を伝える他の写真など、著者がどうしても後の世代に伝えたいと思う熱意が伝わってきます。
本書には、被曝当時の広島の詳細な地図の上に、鈴木さん一家の消息が書き込まれています。爆心地から半径2キロ圏内の建物はほとんどが全壊・全焼した、と付されています。鈴木さん一家の住まいは爆心地から500メートル。一帯は賑やかな商店街でした(戦後復興して、今もまた繁華街です)。鈴木さんの家族は全員が即死だったのではなく、被曝しながら逃れた先で力尽きました。広島出身の学校司書の方は、小学校でこの本を紹介するときに八戸市の地図をもっていくそうです。爆心地からの距離、という言葉が、子どもたちにとって単なる数字にならないように。原爆の惨禍を、遠い土地の昔のできごとと思わないでもらえたら、と思います。
人としぜんとのつながり(みどりのページ)
『すごい! ミミックメーカー』
クリステン・ノードストロム/文 ポール・ボストン/絵 竹内薫/監修 今井悟朗/訳 西村書店 1980円
絵本 5-6年生〜
生物の仕組みに着目して新しいデザインに活かすことは、バイオミミクリーと呼ばれ、さまざまな意味で着目されている分野です。生物が獲得してきた仕組みは、自然の持つ力を利用するものなので、電力などは最初から用いません。たいへん省エネルギーにできています。この本に登場するのは、カワセミ、葉っぱ、サメの肌、砂漠にすむ昆虫、イネ科の植物と共生する微生物、ザトウクジラ、カエデの種子、ヤモリの指というように、さまざまな環境で生きるさまざまな生物たち。それに着目した10名の科学者・エンジニアによる8件の発明が紹介されています。どんな場所にもヒントが隠れている、という子どもたちへのメッセージが伝わってきます。
より詳しく知りたいという高学年には、『生き物たちが先生だ: しくみをまねて未来をひらくバイオミメティクス』(針山 孝彦著 くもん出版 2023年)もおすすめです。
『シロツメクサはともだち』
鈴木純/著 ブロンズ新社 1540円
絵本 1年生〜
春になると道端で必ず出会うシロツメクサ、またの名をクローバー。地面にはりつくようにしてかわいい(たいていは)三つ葉の葉をつけて、ちょこっと伸ばした首の先に丸い白い花。広々とした草っ原でも、コンクリートの隙間でも見つかります。子どもたちはみんな大好き。花がたくさんあるところでは、花を摘んで長い茎を編んで腕輪を作ったりして遊んだりもできます。そのシロツメクサを、もっと近くでじっくり見てみたのがこの絵本。つぼみをアップで見ると、小さな顔がいっぱいあるように見えることや、丸くなっているのは花びらではなくて一つ一つが小さな花であることや、茶色くなりかけたところには小さな枝豆のような種があることや…。今度、道端であったときには、ちょっとしゃがんでアップで見てみてくださいね。幸い、花は春から夏まで咲いています。著者はNHKの番組「ダーウィンが来た!」でもお馴染みの、植物生態写真家。身近な植物の魅力をわかりやすく伝えてくれます。
『わたしはかわいいマヌルネコ』
たけがみたえ/作 あかね書房 1540円
絵本 1年生〜
モンゴルの大草原に暮らすマヌルネコの生態をユーモラスに描いた絵本。木版多色刷りの画面は迫力満点です。野生生物の生活の厳しさも、ドラマチックに描かれていますが、なんといってもふさふさした毛皮の暖かそうな質感と鮮やかな色彩が、簡潔な文章と相まって、何度も眺めてみたくなる絵本です。作者のたけがみたえさんは、この多色木版刷の技法で、このほかに『うみのあじ』(あかね書房 2019年)や『みたらみられた』(アリス館 2021年)などで注目の作家です。
『やぶこぎ』
モリナガ・ヨウ/作 畠佐代子/作 くもん出版 1650円
絵本 5-6年生〜
ゆったりした流れの周りに広がる初夏の河川敷。大人の背丈より高いオギをかき分けて、中に入っていきます。タイトルの「やぶこぎ」は、しっかり身支度をして行う自然観察。指南してくれるのは、おねえさん。きっと監修の環境科学が専門の畠佐代子博士のことですね。そっと、植物を折らないように歩くと、やぶの中にはさまざまな生き物が見つかります。河原には大型の鳥であるアオサギやコサギ、草の陰には親指サイズのカヤネズミやアマガエル。もしかすると鮮やかな羽のカワセミにも出会えるかもしれません。川の近くに広がる田んぼには、また別の生き物が。雨が降った後の河川敷では、動物たちの足跡を見ることもできます。
河川敷には、現代の環境問題も影響を与えています。上流の河川改修などで大水が減っていることはありがたいことですが、河川敷が乾燥した結果、樹木が増えているそうです。緑豊かに見えますが、川の水が流れにくくなり、かえって洪水の危険が増すことになります。また、植物にしてもカメのような水生動物にしても、外来種が増えていることも問題です。在来種が競争に負けていることを意味するからで、爆発的に増える外来植物は、堤防を弱らせることもあるそうです。
今回のリストで紹介している「雑草」や「固有種」を確認するために、近所の自然を探検してみましょう。本書を参考に、しっかり身支度をして注意して出かけることで、自分の目で確かめる体験ができるでしょう。
『ハコフグのねがい』
さかなクン/さく・え 講談社 1760円
絵本 2年生〜
表紙の魚の、背中が青でお腹が黄色い角ばった独特の姿をひと目見ればお分かりでしょう。そうです、さかなクンがいつも被っている帽子の魚です。これはさかなクンが絵と文を手がけたお魚絵本。主人公のハコフグくんが、海の中でさまざまな魚たちに出会い、それぞれの生態が分かりやすく描かれると同時に、争わずに生きるハコフグの生き方が紹介されます。さかなクンはなぜ、あの魚の帽子をかぶっているの?という疑問に答える一冊です。
『トラタのりんご』
nakaban/作 岩波書店 1870円
絵本 3-4年生〜
りんごの好きなトラタのもとに、ある日おじさんからりんごの苗と図鑑が届きました。ベランダでりんごの木を大事に育てるトラタは、あるとき不思議な鳥に導かれて見たことのない庭に迷い込みます。そこにはいろいろな種類のりんごが実をつけているのでした。家に帰って図鑑で調べてみると、先ほど目にしたりんごはどうやら今では育てられていない珍しい品種のようです。いま私たちの食卓にのぼるりんごは、長い先人たちの努力の結果なのでした。
青森県民にとって、果物と言ったら、まず思い浮かべるのはりんごでしょう。青森県庁にはりんご果樹課という組織があるくらい。季節になるとこんなに多くの種類のリンゴが店先に並ぶのは、産地ならではの光景です。この絵本の表紙をめくると、見返しにはさまざまな色合いのりんごが描かれています。トラタが見たりんごでしょう。表紙の見返しと裏表紙の見返しでは別の絵になっているので、忘れずに両方を見てくださいね。色彩の美しさが魅力的な絵本です。
『まっくらあそびをしようよ!』
はたこうしろう/作 ほるぷ出版 1540円
絵本 1年生〜
はたこうしろうさんの「〜しようよ」と呼びかける「おにいちゃんとおとうと」シリーズの最新作。1年生くらいの「ぼく」は6年生らしいお兄ちゃんに指南してもらい、いろいろな遊びを体験します。読者も一緒に遊んでいるような臨場感がポイント。今回は真っ暗な部屋で灯りを使ってする遊びが紹介されます。懐中電灯を使う昔ながらの遊びから、スマホのカメラ機能を使って光で絵を描く方法まで、やってみたい、と思う方法が並びます。最後は自分の目を使って真っ暗だった部屋がうっすら見えるようになるコツも。街灯などの外からの光が入らないような「おばあちゃんち」だからこその遊びかもしれませんが、真っ暗にできる方法から考えることも楽しいでしょう。
『かせい:ちきゅうの みなさん、ようこそ!』
ステイシー・マカナルティー/原作 スティービー・ルイス/絵 千葉茂樹/訳 小学館 1650円
絵本 3-4年生〜
みずから「わくわくわくせい」と名乗る火星が、読者である「ちきゅうのみなさん」を招待する、という絵本。地球と火星は隣どうしであることや、構造が似ていること、これまでに何度も火星探査のロボットが訪れていることなどが語られます。「まだ なんじゅうねんか さきかな」とありますが、有人の火星旅行は、今の子どもたちが現役世代であるうちにきっと実現するだろうと言われています。この絵本で火星に興味を持ち、研究開発に進もうと思う子どもたちも、きっといることでしょう。同じ作家によるシリーズとして、『たいよう』、『つき』、そして『ちきゅう』も出版されています。
『わたしにまかせて! 』
ヘレーン・ベッカー/文 ダウ・プミラク/絵 さくまゆみこ/訳 子どもの未来社 1980円
絵本 5-6年生〜
数学者として、NASA(アメリカ航空宇宙局)のさまざまなプロジェクトで軌道の計算を行ったキャサリン・ジョンソンの伝記絵本です。アフリカ系アメリカ人の女性ということから、20世紀初頭では教育の機会に恵まれたとは言えない環境で、家族の温かい支援を受けながら成長した少女時代、コンピュータ普及前に計算手という下請けの仕事についたところから力量を認めさせていくまで、そして事故にあったアポロ13号の帰還計画を無事に成功させたエピソードなど、心躍る実話です。2016年に、ジョンソンの若い頃の活躍を描いた映画が大ヒットし、日本でも『ドリーム』というタイトルで公開されました。
『カタリン・カリコ mRNAワクチンを生んだ科学者』
増田ユリヤ/著 ポプラ社 1650円
ノンフィクション 5-6年生〜
日本のジャーナリスト増田ユリヤさんによるカタリン・カリコ博士の伝記です。2023年ノーベル生理学・医学賞を受賞した博士ですが、新型コロナワクチンに使われた技術の発見という業績は2022年、いち早く日本国際賞と慶應医学賞の受賞として顕彰されていました。著者の増田さんは、さらにその前年の2021年に博士の業績を新書『世界を救うmRNAワクチンの開発者カタリン・カリコ』として紹介しており、本書はカリコ博士とのインタビューなども追加し、そのポプラ新書を再構成して2023年8月に出版されました。したがって、12月にノーベル賞受賞の報道がされた時には、一斉に書店の棚に並ぶことができたのです。
カリコ博士本人から提供された子ども時代や家族の写真が紹介されており、まだ社会主義体制だった時代のハンガリーで、伸び伸びと科学への興味を広げていった少女時代を思い浮かべることができます。いっぽう、より恵まれた研究環境を求めて一家で渡米した際のエピソードには、ハラハラします。現金を隠して持ち出したというお嬢さんのぬいぐるみのクマは、お嬢さんと一緒の写真で紹介されています。また、新規な手法だったために、なかなか研究費を獲得できなかった経緯や、男性中心の研究者の世界での苦労なども述べられています。人類への恩恵となったワクチン開発も、このような人間的な苦労の先に生まれたものだったのです。
『世界一長い鉄道トンネル 』
笹沢教一/文 鈴木さちこ・萩原まお/絵 Gakken 1650円
ノンフィクション 5-6年生〜
著者の笹沢教一氏は、大学院で地学を専攻ののち、新聞社に入社。科学記事だけでなく海外支局の経歴も長いジャーナリストです。この本でも特派員として現場で取材した経験が反映されていて、臨場感があります。これまで一般向けに『コロナとWHO』『ニッポンの恐竜』(ともに集英社新書)といった科学系の書籍を出版してきた著者が、初めて子ども向けに手掛けたのが本書。アルプスの地質学的成り立ちや特徴から始まり、人々がこの山脈を越えるためにどのような手段を講じてきたかという歴史を踏まえ、その経済的意味、さらに現代の工法に求められる環境的配慮に関してまで、トンネルにまつわるあらゆる側面への目配りがされています。スイスという土地柄、人々の政治的な姿勢にも言及されていて、「ものづくり」にとっていかに社会との関わりが重要であるかが伝わってくるという点でも興味深く読めます。第9回子どものための感動ノンフィクション大賞最優秀作品。
『めちゃうま!? 昆虫食事典』
内山昭一/監修 大串ゆうじ/絵 大泉書店 1320円
ノンフィクション 3-4年生〜
昆虫もエビ・カニ類も、同じ節足動物です。主に水中で進化したのが甲殻類、陸上で発展したのが昆虫やムカデなどの多足類。エビやカニはグルメの大好物なのだから、昆虫だっておいしくいただけるはず。それに、昆虫は栄養面でウシなどと同等であるというほど食品としてすぐれている上、ウシやブタに比べると環境負荷は遥かに小さいという点で、地球にとっての健康食。さて、いろいろ理由を並べてみましたが、それでも食べ慣れないものに挑戦するには勇気が必要ですよね。でも、日本でも今から100年くらい前までは、全国で150種類もの昆虫が食材となっていたという調査結果もあるそうです。海に近い場所ではあまり必要を感じることがなかったでしょうが、流通・保存の手段が限られた時代には、内陸の地域で入手しやすいタンパク源として重宝されたのでした。今でも長野県は昆虫食の伝統が残っています。青森県内でもイナゴや蜂の子を佃煮などにして食べていたと聞いているご家庭もあるのでは?
この本は、実際に食べて昆虫食の普及を図っている昆虫食研究科の内山昭一さんが監修しています。2013年には国連食糧農業機関(FAO)が「理想的な食糧」として推奨している昆虫食。地球温暖化を防止し、飢餓に苦しむ人々を失くすというSDGsの観点から、今後の発展が期待されている分野です。ちなみに昆虫食の缶詰は自動販売機で手に入ります。八戸市内某所にも既に設置されているという噂も! ぜひ、探してみてください。
『日本のスゴイいきもの図鑑 海、山、川、街etc.で懸命に生きる固有種の話』
加藤英明/著 大和出版 1650円
ノンフィクション 5-6年生〜
固有種とは生物種の中で、特定の地域にしか生息しないものを指します。世界の隅々に広がって生きているのはヒトやヒトに飼われているイヌなどの家畜くらいで、自然な状態ではほとんどの生物がその土地の条件に応じて、特定の地域で暮らしています。日本は島国という環境から、国境の内側にしか生息しない固有種が豊富です。さらに、北海道と本州の間には名に見えない境界線があって、ニホンザルのように青森県が最北の地域になっているものも少なくありません。また、亜熱帯の沖縄地方や海に隔てられている奄美大島のような沖合の島々には、アマミノクロウサギのような希少な固有種がいくつも発見されています。
固有種はその土地の条件に適応しているので、本来ならばその土地では珍しくない生き物であることが多いのですが、人間の都合で外部から持ち込まれた外来種との競争で数を減らしている種も少なくありません。小学校5年生の国語の教科書でも取り上げられている日本の固有種について、親しみやすい表現で解説されています。また、固有種を守るためにぜひ気をつけてほしいことも、詳しく説明されています。
著者はテレビ番組への出演やYouTubeでも活躍中の加藤秀明氏(静岡大学教育学部教授)です。
『最強無敵の雑草たち(10歳から学ぶ 植物の生きる知恵)』
稲垣栄洋・小島よしお/共著 家の光協会 1540円
ノンフィクション 3-4年生〜
「雑草という草はない」とは牧野富太郎のことば、と言いますが、世間では雑草と一括りにされる植物の一群があります。その雑草の特徴を、植物学者である著者の1人の稲垣栄洋さんは、植物界の「常識」みたいなものから外れているところにあると、後書きの対談で述べています。もう1人の著者である小島よしおさんも、雑草を「いろいろな価値観で生きている」とまとめます。他の植物との競争を避け、あえて厳しい環境に進出することで人の目に留まりやすくなった雑草の数々を、わかりやすいキャラクターとして描いているこの本は、ふだん見過ごしている植物に目を向けるきっかけになると同時に、子どもたちに、いろんな生き方があるんだな、と思ってもらう機会になるはずです。歌う教育芸人として人気抜群の小島さんによる音声が聞けるQRコードがついているのは、いかにも今の子どもたちのニーズに合わせてあります。