【マイブック推進事業】ブックリスト「本はともだち2023」 保護者の方向けおすすめコメント

2023.07.02

八戸市内の小学生に、本が購入できるブッククーポン券を配布する「マイブック推進事業」。2014年から始まり、今年で10年目を迎えます。

マイブック推進事業について

2017年からは、クーポンとともに、おすすめブックリスト「本はともだち」を配布。小学生のみなさんに、「読んでみたいなあ」と思ってもらえるようなリスト作りをめざし、選書やレイアウトをしています。

 


 

八戸市マイブック推進事業 おすすめ図書リスト「本はともだち」について

 八戸市がマイブック・クーポンとあわせて配布している「本はともだち」では、クーポンの趣旨に沿って、次のような基準でお勧めする図書を選んでいます。
 まず、子どもたちが自分で選べるように、書店で見つけられるものであることが重要です。素晴らしい図書、読んでほしい本でも、品切れになっている場合は店頭に並ぶことはありません。クーポン配布の時期に入荷が可能であるかどうかを確認して紹介するようにしています。
 また、できればずっと大事にしてもらえるように、子どもの本としてすぐれていると自信を持って言える本を選んでいます。
 「子どもの本としてすぐれている」と言える基準は一つではありません。たとえば、

  読むと幸せな気分になれる本

  情報がつまっていて、読むたびに発見がある本

  繰り返し読むうちに、そこに込められた意味が違って見えたり広がって見えたりする物語

というように、さまざまな「よさ」があります。そして、それぞれの子どもにとっても、必要とされる本は異なります。そのため、できるだけさまざまな分野やジャンルから選ぶようにしています。
 また、このリストでは、とてもよく知られている名作ではなく、どちらかといえば、新しい、これから名作として読み継がれていくかもしれない本を選んでいます。子どもたちも現代の社会に生きているのであり、むしろ未来に向かって成長しているからです。
 自分だけの本というのは特別な存在です。常に手元にあることで繰り返し手にとりたくなる本が見つかりますように。その一冊が、もしかすると人生を変えるかもしれません。子どもの時にであう本には、それだけの力があるからです。 (戸田山)

 


 

ものがたりをたのしもう!

 

『げたばこかいぎ』

村上しいこ/作 高畠那生/絵 PHP研究所 1,320円

 「はるとくん 起きてください。げたばこかいぎがはじまりますよ。」はるとはある夜、はるとの右足のスニーカーに起こされます。家のげたばこの中のくつたちが集まる「げたばこかいぎ」によばれたのです。議題はパパのかわぐつがくさいので、はるとからパパにつたえてほしいというものでした。 「パパのかわぐつがくさくて、みんなこまってる」なんて、はるとにはとても言えません。翌日、学校でもげたばこかいぎのことで、頭がいっぱい。「先生のくつもくさいですか? どうしてにおいってあるんですか?」というはるとに、先生の答えがとってもすてきです。「生きているからです。においは生きているしるしです」という言葉から、はるとには、においはけっして悪いわけではないと思えてきました。においは自分ではなかなか分かりにくく、その感じ方も様々でパーソナルな部分です。「においは生きてるしるし」という言葉に、お互いを認め合うやさしさを感じます。
 その日の夜、げたばこかいぎで、はるとはあることをくつたちにきっぱりと宣言します。においの解決方法まで提案して、拍手喝さいでこの件は解決するのですが、そのあと、別の苦情が持ち込まれます。「はるとくん、そうかんたんには終わらないよ」と、思わせる絶妙な結末です。(長尾)

 


『ゆかしたのワニ』

ねじめ正一/文 コマツシンヤ/絵 福音館書店 990円

 リアルなワニと完全防備の「ぼく」の姿が描かれた表紙に、なにが始まるのかワクワクしませんか。大きな口を開けたワニですが、その目からは、食べてやるといった気配は感じられません。ページをめくると、何やら着替えをしている「ぼく」と、細かく描かれた家の断面図、右下にはワニがほんの少し描かれています。「ぼくんちの床下にはワニがいて、夜になるとワニの歯磨きをするために床下に出かけていく。」えっ、ワニ! どうして床下にワニ? 謎や不思議をたくさん残しながらも、「ぼく」がワニの歯磨きをする様子に引き込まれていきます。
 コマツシンヤさんの絵は一つ一つ緻密に描かれ、遊び心が画面いっぱいに広がっています。夜の街灯に集まる蛾、じめっとした床下のナメクジ、オタマジャクシや亀、ワニの歯の食べかす、リアルなワニの肌感や歯磨きをして気持ちよさそうなワニの顔。不思議なワニの歯磨き用7つ道具も必見です。
 「ぼく」とワニの関係を想像してみたり、何度も読み返してページの絵を楽しんだり、いろいろな読み方ができる1冊です。最初と最後のページを見比べてみるのもおもしろい!(長尾)

 

 


『すしねずみ』

はらぺこめがね/作 ポプラ社 1,540円

 はらぺこめがねさんは、原田しんやさんと轟ロックさんお二人によるイラストユニット。「食べ物と人」をテーマに活動されています。食べ物が大好きなお二人ということもあって、描く絵はどれも、思わずヨダレが出てしまいそうなほどにリアル!
 (以前はらぺこめがねさんの『にくのくに』『かける』を、小学生のみなさんにブックトークでご紹介したときは、美味しそうな絵の数々に、歓声が上がるほどでした。)
 この絵本で登場する『すしねずみ』たちは、見た目からして、なんだかいたずらが好きそうな雰囲気。案の定、彼らはお寿司屋さんに忍び込み、ネタを盗もうとしています。でもなかなか一筋縄では行きそうにありません。所々に登場するタコ、えび、あじ…そのどれも今にも絵本を飛び出してきそうなくらいのリアルさです。もう一つ、注目すべきは、表紙裏、美味しそうな寿司がずらっと並んでいます。そのまま絵本を読み進め、最後のページのさらに最後に、表紙裏と同じ絵が登場しますが……あれ?何かが違う? これは、読んでのお楽しみ。
(それはそうと、すしねずみ、風貌からして、そもそも君たちが寿司ネタでは……? と思っていたら、実は寿司コスプレだったことがわかり、とても愉快な気持ちになりました。)(森)
 
 

 
『おにのしょうがっこう』

山田マチ/作 岡本よしろう/絵 あかね書房 1,320円

 ふたごの鬼の兄弟のベニーとルリーが通う小学校の物語です。朝の会では歯や角をきちんとみがいてきたか先生が確認するところから楽しい鬼の学校生活が始まります。鬼は、大人になったら地獄でお仕事をします。そのために国語は、人間の名前や地獄の行き先を勉強します。算数は、地獄での人間の人数や時間を数えられるよう勉強します。そのほかに鬼にとって大事な「かなぼう」の時間もあります。音楽は、太鼓の練習もあって、上手にたたくこと事ができたら将来、雷様になれるかも知れないので真剣です。
 そんなある日、鬼ヶ島へ楽しい遠足に行きました。お弁当をたべていると突然、人間がやってきて大騒ぎ。実は、悪い人間もいるのです。お父さんとお母さんのお迎えが来るまで不安でいっぱい。大変な思いで帰ってきてもまだ危険なため外出は、できません。お家でパソコン「オニライン授業」をします。立派な鬼になるために一生懸命お勉強しています。
 人間世界とちょっと違うキュートな鬼の小学校生活を面白おかしく描いた物語で、親子で笑いながら読める1冊です。(関下)

 


『きょうりゅうバスでとしょかんへ』

リウスーユエン/文 リンシャオペイ/絵 石田稔/訳 世界文化ブックス 1,430円

 体が大きくてわんぱく、そして友達思いの優しいきょうりゅうくんが主人公のお話です。図書館のお話の時間に遅れそうなった子どもたちを乗せて、きょうりゅう専用道路を走るきょうりゅうバス。途中草のビスケットを食べたり、自動車道路に飛び出し、クレーン車と追いかけっこをしたりしながらも図書館へ子どもたちを送り届けますが、体が大きすぎてきょうりゅうくんだけは図書館へ入ることが出来ません。悲しんでいたきょうりゅうくんでしたが、図書館の館長から「図書館バス」に任命され、図書館員と本を乗せて色々な町や村に本を届けます。
 文を担当したリウ・スーユエン、絵を担当したリン・シャオペイは共に台湾出身の作家で、リウ・スーユエンの最初の夢は「図書館員」になることだったそうです。カバーの裏には、世界中の実際にある移動図書館が紹介されていて、読書や、世界への興味も広がる心温まるファンタジー絵本です。続編として「きょうりゅうばすでがっこうへ」も出版されています。()

 


『やまの動物病院』

なかがわちひろ/作·絵 徳間書店 1,870円

 山の麓の町はずれにある動物病院。先生の名前がまちの先生なので、まちの動物病院なのですが、もちろんそれは、まちの動物たちのための病院だからでもあるでしょう。では、やまの動物病院とは、どういうこと?
 もちろん、山の動物たちの病院だから、です。夜になると開業する病院の先生役は、まちの先生の飼い猫のとらまる。もちろん、まちの先生はそんなことは夢にも知りません。不思議な事が起きるのは、動物病院があるのが町と山の境にあるからでしょうか。作者は後書きで、とらまるの耳には「ヤマネコの耳毛」と呼ばれるツンツンした毛が生えている、と述べています。とらまるは普通の猫ではなさそうですが、人間はそのことに気づいていないのです。のどかな日常に、ちょっとした事件があり、ちょっと嬉しいことがあり、今日もまた、1日が過ぎていく……。文も絵も手掛けるなかがわちひろさんの、絵に描き込まれた文字情報にもご注目ください。 (戸田山)

 



『げんきになったよ こりすのリッキ』

竹下文子/文 とりごえまり/絵 偕成社 1,540円

 病気をし、長く入院していた子どもたちにとって、退院して学校に戻り、友だちと生活できることはとても嬉しいことです。ですが、「ふだんの生活」が、想像以上に大変だということを、私自身、この絵本を読むまで知りませんでした。
長い入院から戻ってきたこりすのリッキは、体が思うように動かず、以前のように遊んだり勉強したりできないもどかしさや辛さを抱えています。その悩ましさを、周りのやさしさやフォローで少しずつ乗り越え、ゆっくり心と体を回復させていく様子が、絵本では描かれています。
 「ふだんの生活」を取り戻すことが、本人の努力だけでは難しいこと、周りの理解がとても大切だということ。とりごえまりさんの繊細かつあたたかな絵を見ていると、絵本だからこそ伝わるものがある、と強く感じます。実際、とりごえさんは、編集者だけではなく、子ども病院に勤める塚田薫代さん(この絵本の原案を作られた方)に意見を聞きながら、より伝えたいことが伝わるように、絵を完成させたそうです。たくさんの児童書を執筆されている竹下文子さんの文章も、絵にぴったりのテンポで進んでいきます。たくさんの方に読んでほしい一冊です。(森)
 
 

 
『よるのまんなか』

おくはらゆめ/作・絵 理論社 1,320円

 真夜中、誰もいない台所で「ブーン」と音がなりました。冷蔵庫が目を覚ましたのです。のしん、のしんと足音を響かせて、宇宙の図鑑を手に散歩へ出かけます。同じ頃、一目惚れした春の日から眠れない夜を過ごすかまきりくんが、大好きなあの子を想って俳句を作っていました。公園のブランコの下では水たまりがぴしゃっと目を覚まします。雨の時も良いけど水たまりの時が一番好きだな、と子どもたちと遊んだ楽しい昼間のことを思い出していました。「もんもん ぱろるう うん ぽわか」不思議な歌と一緒に窓の外に現れたのは大きくて毛むくじゃら、しかも胸に毛むくじゃらの赤ちゃんを抱っこしている謎の生き物。歌いながら、目を覚ました人間の赤ちゃんを外へ連れ出してしまいます。一緒に起きて、星を見る約束をしたチューリップとありんこもいます。だけど真夜中になってもチューリップはぐっすり眠ったまま。幸せそうな寝顔を見ていると、ありんこもあくびが出てきてしまうのでした
 NHK Eテレ「おかあさんといっしょ」の月の歌の作詞・イラストでも知られる絵本作家おくはらゆめさんの描く幼年童話『よるのまんなか』は、淡く優しい色彩に可愛らしい絵で、夜が持つ少しの不安と秘密の気配を感じさせられます。すべてひらがなで書かれているので、自分で読み始めた子どもにもぴったりです。(山上)

 


『うみのとしょかん あらしがやってきた』

葦原かも/作 森田みちよ/絵 講談社 1,210円

 『うみのとしょかん』シリーズの4冊目。ヒラメが世話をする海の図書館を舞台にした、本をめぐるちょっとすてきなお話です。
 普段は穏やかな海の底に、ある日嵐がやってくるところからこのお話は始まります。ヒラメは本を守ろうとしますが、嵐には勝てません。しかし、本が流されたおかげでよいことも起こりました。その中の一つ〈オコゼの空〉では、嵐でなくなってしまった空の本を探しているオコゼのために、空を見たことのあるトビウオたちが協力して空の本を作ります。「一度でいいから空を見てみたい」というオコゼの憧れや、夢がかなったときの静かな満足感が、易しい言葉で語られています。
 このシリーズの魅力は、海の図書館を利用している生きものたちが、形や大きさや生息する場所の違いをこえて心を通わせている点だと思います。天敵であるはずのサメによりかかって本を読んでいる小さいイカや、深い海の底にいるため会うことができないチョウチンアンコウから届く手紙など、ユーモラスでありながら、温かい描写がたくさんあります。また、登場する生きものたちの特徴がうまく生かされており、子どもたちにも、互いの違いを認め合う喜びが伝わってくれることを願っています。(常田)

 


『学校はオバケだらけ!ホオズキくんのオバケ事件簿 5』

富安陽子/作 小松良佳/絵 ポプラ社 1,320円

 4年1組のオバケ探偵団のメンバーは、ホオズキくんと、おマツとハシモトの3人です。実は、ホオズキクンは、オバケが見える一族に生まれ、オバケに関する知識がプロなみなのです。そこに目をつけたおマツの提案で探偵団は結成されました。そして、すでにいくつかオバケがらみの事件を解決しています。
 今回は、目が三つある風船みたいなオバケが学校の色々な場所で目撃され、うわさになっています。そこでオバケ探偵団がその真相をつきとめるために調査に乗り出します。ホオズキくんは、オバケをおびきよせるための「オバケ呼ぶ子」や「オバケの見える目薬」などを家からもってきます。その道具を使って、オバケをどのように退治するのでしょうか? この作品は、シリーズ化されており、5作目です。
 巻末には、鬼灯京十郎(ほおづききょうじゅうろう)オバケファイルとして毎回1つずつ有名な「オバケ」の出現場所や退治方法などが紹介されています。この本で取り上げられているのは「つくも神」。「つくも神」についてもっと知りたい方は、『つくも神』(伊藤遊作、ポプラ社)を紹介します。こちらも合わせて読んでみてはいかがでしょうか。(藤田)

 


『紫禁城の秘密のともだち 1 神獣たちのふしぎな力』

常怡/作 小島敬太/訳 おきたもも/絵 偕成社 1,430円

 北京の広大な城、紫禁城を舞台にくりひろげられる、伝説の神獣たちと小学4年生の女の子、小雨(シャオユウ)の物語。短いお話がゆるくつながる、連作短編集です。
 お母さんが紫禁城で働いている関係で、放課後は毎日のように紫禁城で過ごす小雨。ある日、きれいな光る石のイヤリングをひろってから、いつも餌をやっていた野良猫の梨花(リーファー)の言葉が聞こえるようになって、不思議なことが次々と起こります。中国に古くから伝わる龍や鳳凰などの神獣たちと、さまざまな冒険に出かけます紫禁城の宝物や建物の不思議も描かれ、わくわく感満載のエンタメファンタジーです。
 作者の常怡は、1978年に生まれ、北京に育ちました。祖父の影響で、紫禁城や不思議な神獣に小さいころから興味をもち、この物語が生まれました。おきたももさんの挿絵は、温かみがありちょっととぼけた神獣たちも身近に感じます。各物語のさいごに4回掲載されている新聞神獣タイムズでは、紫禁城の秘密や歴史文化にふれることもできます。シリーズ「夏の夜の神獣列車」「龍のベッドで寝る少年」も好評です。(長尾)

 

 


『あずきがゆばあさんととら』

ペクヒナ/絵 パクユンギュ/文 かみやにじ/訳 偕成社 1,430円

 韓国の小学校の教科書に掲載されている、韓国の昔話です。山奥に住む、美味しい小豆粥を煮るあずきがゆばあさん。ある日大きなトラがやって来て、おばあさんを食べようとしますが、「美味しい小豆粥をたらふく食べてから食べたらいい。」と言われ山へ帰っていきます。
 やがて冬至になり、泣きながら小豆粥を煮るおばあさんのところへ栗やスッポン、うんちなど、次から次へとやって来て、小豆粥を一杯ずつもらったお礼にトラをやっつけようと力を合わせて立ち向かいます。
 詩人で作家のパク・ユンギュと、韓国で最も注目されている絵本作家のペク・ヒナが、韓国で有名な昔話の世界をユーモアたっぷりに表現している絵本です。泣いているおばあさんの所へ韓国の田舎では身近にある物たちが次々と登場する繰り返しに「次は、何がやって来るのかな?」とワクワクする、日本の昔話「猿蟹合戦」に似ているお話です。()

 

 


『アリババの猫がきいている』

新藤悦子/作 佐竹美保/絵 ポプラ社 1,650円

 アラビアン・ナイトのような登場人物の名前ですが、お話の舞台は現代の東京です。主人公はイラン出身の言語学者アリババ、ではなく、飼い猫のシャイフ。イランのバザールで代々飼われていた人間の言葉を解する賢いペルシャ猫の子孫です。シャイフはアリババが出張で留守になっている間、世界の民芸品を扱うお店「ひらけごま」に預けられ、祖国イランから来たタイルや隣国アフガニスタンのガラスなどから数奇な身の上話を聞きます。イランから日本の学校に転校したばかりの女の子ナグメや日系ペルー人の男の子タケルとも仲良くなったシャイフは、日本にも世界中からたくさんのモノや人々がやってきていることを知ります。政変や戦争、経済のグローバル化によって故国を離れて日本で働く人々、家族の移住に合わせて慣れない日本語での生活に苦労する子ども達など、読者は世界がつながっていることを知ることでしょう。結末では、孤独だったアリババに、たまたま住むことになった日本で人とのつながりが生まれます。
 作者の進藤悦子さんはトルコなど中近東に関するノンフィクションを多数手がけた後で、子どものためのお話も書くようになりました。この作品とは逆に、海外に住む日本の子どもたちが登場する『インスタンブルで猫さがし』では、トルコの白いネコが重要な役割を果たします。本作品に登場するアフガニスタンの子どもたちの置かれた厳しい状況について知るには、ジャネット・ウィンター作『アフガニスタンのひみつの学校 ほんとうにあったおはなし』(さ・え・ら書房、2022年)や、内堀タケシによる写真絵本『ランドセルは海を越えて』(ポプラ社、2013年)、その続編『7年目のランドセル: ランドセルは海を越えて、アフガニスタンで始まる新学期』(国土社、2020年)も、ぜひ手にとってみてください。(戸田山)

 


『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』

椰月美智子/著 早川世詩男/絵 小峰書店 1,540円

 小学校も5-6年になると、そろそろ自分の限界に気づき、苛立ちを覚えるようになる。この物語の主人公である拓人と親しい友人たち男子3人組は、拓人自身の表現によれば、すでにクラスの「しらけチーム」だ。「答えはわかっているけど、手はあげたくない。根は正直だと思うけど、素直じゃない。」そのうえ、拓人は他の2人のようには自分の進むべき道を見つけられないでいる。中学受験は諦めたし、サッカーはやめてしまった。一人称の語りの中では明白に述べられていないが、心の中では友人たちに置いていかれた気持ちがあることが読者に伝わってくる。だから、なりゆきで怪我をさせてしまった老人の身の回りのお手伝いをする羽目になったことは、拓人にとっての一種のリハビリになったのだ。「聞き上手」の田中さんに拓人は学校でのあれこれを聞いてもらうことで、自分を見つめ直していく。そして、田中さんが戦争で家族を失ったことを知った3人は、1人でも多くの人たちに話を聞いてもらいたいと、学校での講演を企画するまでになる。微妙な年頃の子どもたちを時に叱り飛ばす母親、さりげなく励ます兄、男子たちにうざいと思われているが絶妙のタイミングでサポートをするクラスメート女子や担任教員など、周りの人物たちも、彼の狭い思い込みをよい意味で裏切っていく。他の人のことを知るということが自分自身を知ることにつながることを鮮やかに描いた成長物語だ。
 作者は本作品で2020年に第69回小学館児童出版文化賞を受賞。今年、双葉文庫から文庫版も出版された。作品の中で言及されているのは815日未明の熊谷空襲だが、八戸市でも7月と8月の空襲で死傷者が多数あったことを知る機会になることを願っている。(戸田山)

 

 


人と人とのつながり

 

『世界の市場 おいしい!たのしい!24のまちでお買いもの』

マリヤ·バーハレワ/文 アンナ·デスニツカヤ/絵 岡根谷美里/訳

 1年12ヶ月それぞれに一つの国の二つの市場が紹介されています。例えば、1月はイスラエル、2月はチリというように。それぞれの月には3つの見開きがあります。情報欄のページには、その国の市場で一般的によく売られているもの、知っておくと便利な表現(「ありがとう」はなんというか、など)、手軽に挑戦できるその国の家庭料理のレシピなどが掲載されています。次の見開きでは、二つの市場の外観や特徴的な名産品が見比べられるようになっています。そして、細かく描き込まれた見開き1枚の大画面から目当てのものを探しだす「みつけられるかな」のページです。食材の中には見たこともないものがたくさんありますが、中には意外なおなじみが登場して驚きます。たとえば、道の駅などで見かけることがある菊芋がアメリカの市場で売られています。
 文を担当するバーハレワ、絵を担当するデニスツカヤはどちらもロシアで活動するアーティスト。原作は2021年に出版されました。各地の市場が取材されたのはコロナの流行以前だったことでしょう。毎日の生活を支える市場を通して、子どもの読者が世界の人々を身近に感じられることで、戦争や紛争のない社会を求めるようになって欲しいと願っています。(戸田山)

 

 


『なみのいちにち』

阿部結/作 ほるぷ出版 1,980円

 太陽がのぼり、なみの一日がはじまります。なみは、お父さんの船を沖へ送り、「さん ささーん」とうたって、泣く子をあやします。夏の太陽の下で、子どもたちとおにごっこをしたり、自分にそっくりなスカートに話しかけてみたり。昼下がりには海水浴をするたくさんの人たちでにぎわう砂浜ですが、夕方にはすっかり静かになります。風に飛ばされたおじいさんの帽子をひろった女の子。海の町で生きてきたおじいさんをそっとみつめるなみは、とても優しく穏やかです。太陽がしずみ、月が顔を出すころ、海には不思議なおきゃくがおとずれ、なみの上でダンスパーティーがはじまるのでした。
 なみのゆたかな一日を描くとても美しい絵本です。作者の阿部結(あべゆい)は、宮城県気仙沼市で育ちました。この地域は昔から大きな津波に見舞われてきた地域です。作者は海の持つ優しく穏やかな顔に親しむと同時に、それとは違う顔も持つ海のことも幼いころから学んできたそうです。文中にある「わたしは いつも ここにいて あなたのことを まっている。」という一文には海の町に暮らしてきた作者の、ふるさとを想う思いがあふれているように思えます。年齢を重ねるごとに、ふるさとを想う思いは変化します。この本を読んだ人のふるさとの記憶が、海の町の美しい情景に重なった時、さて、あなたは読み終わったあとに、何を思うのでしょうか?
 阿部結は、美術教師であった画家の父の影響で、幼少のころから絵に親しんで育ち、イラストレーションと絵本製作を学び、書籍装画や演劇の宣伝美術なども数多く手がけます。絵本作品に『あいたいな』(ひだまり舎)、『ねたふりゆうちゃん』(白泉社)、『おおきなかぜのよる』(ポプラ社)などがある。(源新)

 


『きみはたいせつ』

クリスチャン·ロビンソン/作 横山和江/訳 BL出版 1,760円

 顕微鏡で見る小さな生き物から恐竜まで、小さな子どもから人生の終幕を穏やかに迎えようとする年配者まで、地球上の命にそれぞれに生きている時間があり、どれもそれぞれに尊いものであることを、シンプルなことばと壮大なスパンの画面で表す絵本です。表紙にはさまざまな子どもたちが描かれ、読者が自分に似ている子どもを見つけられるように考えられています。
 原書は2020年にアメリカで出版されました。『きみはたいせつ』というタイトルの原題You Matterは、2013年にツィッターのハッシュタグとして広まった「ブラック・ライブズ・マターBlack Lives Matter」(「黒人の命はたいせつ」と翻訳されることがあります)というフレーズを下敷きにしたものでしょう。アフリカ系の少年が警官に射殺されたことに対する憤りから発せられたこのことばは、似たような事件が繰り返されるたびに広く知られるようになりました。この作品では、この標語の精神を広くとらえ、肌の色の違いだけでなく、さまざまな「ちがい」を越えて、すべての人々を尊重する社会を求めるために、あえて限定をさけ、読者である「きみ」にむけて語りかけるものとして使っています。著者のクリスチャン・ロビンソンの作品は、イラストレーターとして参加した『おばあちゃんとバスにのって』(鈴木出版)や『マイロのスケッチブック』(鈴木出版)などが日本でも出版されています。今、最も注目されているアメリカの絵本作家の1人と言えるでしょう。(戸田山)

 


『すいどう』

百木一朗/さく 福音館書店 990円

本書は2017年の月刊誌「かがくのとも」(福音館書店)のハードカバー化されたものです。
 水道の水は、どこからきて、どこへ流れていくのでしょう。元々水道の水は、山に降った雨。その雨水が、川となり浄水場を経て、水道管を通って各家庭へと送られていきます。台所やトイレなどで使われた汚水は,下水管を通り下水処理場に送られ、きれいになった水は再び川にもどり、海へと流れます。やがて海の水は蒸発し、雲となり雨や雪になります。普段目にすることのない道路の下にある水道管や下水管の流れる様子を通して水の循環がわかりやすく描かれている科学絵本です。
 水の循環を描いた絵本として、ほかに『かわ』加古里子『しずくのぼうけん』マリア・テルリコフスカ『花はどこから』大西暢夫など(いずれも福音館書店)があります。(藤田)

 

 


『だがし屋のおっちゃんはおばちゃんなのか?』

多屋光孫/作 汐文社 1,760円

 表紙にはだがし屋を背景に立つおっちゃんの後ろ姿。中を開くと正面の姿。どう見てもおっちゃんである。しかし、ある日、「ぼく」は目撃してしまう、おっちゃんが「はるこちゃん」と呼ばれて慌てる姿を。ということで、この絵本は生まれた時の性別と本人の性自認が異なる人の話を子どもたちに伝えるものだ。性的マイノリティ、いわゆるLGBTQ(レスビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー・クェスチョニング)やSOGI(性的指向・性自認)とまとめて呼ばれる人間の属性については教科書でも取り上げられるようになり、児童書としても教科書的な解説書が出版されるようになってきている。けれども、この本は、そのような「紹介」ではなく、読者が登場人物を通してだがし屋のおっちゃんという人物に「出会う」機会を提供しているという点で、一線を画している。登場する子どもたちはおっちゃんの人生(つらかった子ども時代、勇気を振り絞ったカミングアウト、家族や友人たちの温かい言葉など)を知ることで、自分たちもちょっと変わる(成長する)。その点で、子どものための物語の王道をいく普遍的な作品であると言える。とはいえ、だがし屋の商品や商店街の店の看板など、細かく描きこまれたギャグはかなりふざけていて、真面目なテーマを敬遠しそうな年頃の読者も惹きつけるように考えられている。その意味でも多様性に配慮した作品と言えるだろう。(戸田山)

 

 


『ライラックどおりのおひるごはん みんなでたべたいせかいのレシピ』

フェリシタ·サラ/作 石津ちひろ/訳 BL出版 1,760円

 ライラック通り10番地の建物から、いいにおいが漂ってきます。
 スペインのサルモレホ(トマトの冷製スープ)、南インドのココナッツ・ダール(赤レンズ豆のカレー)、ギリシャのスパナコリゾ(ほうれん草のリゾット)……世界各国出身の15人が、次々に料理作りを披露。登場する住人もお国柄豊かに描かれ、個性的です。
 お料理紹介は見開きに一つずつ。左のページには、住んでいる人の服装や部屋の様子でお国柄を表現。絵を見ながら「さあ、どこの国でしょう?」と当てっこするのも良いですね。右のページでは、簡単なレシピと食材の絵がのっていて、出来上がりの料理の大体のイメージがつかめます。塊のパルミジャーノ・チーズ、七面鳥のひき肉など、珍しい食材も多いので、食べたことがない場合は、どんな味か想像してみるのも楽しいですね!
 日本人も登場します。みりん、しょうゆ、鶏肉と卵、そしてお米も使って、どんな料理が出来上がるのかは本を読んでのお楽しみです。
 最後はみんなで庭に集まって、あなたも一緒に「いただきます!」。
 著者のフェリシタ・サラはオーストラリア生まれ。西オーストリア大学を卒業後イタリアに移住し、現在はローマに住んでいるそうです。この他の作品に『ドラゴンのお医者さん』(岩崎書店)などがあり、20233月には同じ出版社からこの本の続編『フルールヴィルのいちねん: にわからうまれた せかいのレシピ』 が出版されています。ちなみに翻訳は多数の絵本を生み出してきた詩人の石津ちひろさんです。(円子)

 

 


『和ろうそくは、つなぐ』

大西暢夫/著 アリス館 1,650円

 「和ろうそく」のゆらめく炎は昔からつづく技で、一本一本手作業で作られています。この伝統的な作業は無駄がなく、一つの作業工程で使い終えたものを捨てることなく、次々と伝統的な「技」同士をつなげていきます。自然の恩恵を「いただいてきた」日本のものづくりと、江戸時代に育まれた「もったいない」理念がつないだ循環型社会はこうして現代にも生きています。
 さて、和ろうそくは西洋のキャンドルと違い、煤(すす)が少なく部屋を汚すことも少ないのだそうです。そして芯が空洞になっており空気が流れるので炎のゆらめきがおこる、炎も大きいので明るいのだ、ということがファラデーの「ロウソクの科学」でも驚きをもって紹介されたとのこと。
 日本の誇れる伝統工芸にふれてみませんか。(後村)

 

 


『すごいゴミのはなし ゴミ清掃員、10年間やってみた。』

滝沢秀一/文 スケラッコ/イラスト 萩原まお/イラスト 学研プラス 1,430円

 お笑い芸人でゴミ清掃員でもある滝沢秀一さんが、「ゴミ」について、楽しく分かりやすく紹介。清掃員の目線でおもしろいエピソードを交え、クイズや4コマまんがもあり、最後まで飽きさせない本となっています。
 ゴミについて、今、何が問題になっているのでしょうか。ゴミ清掃車が燃える(分別されていないゴミによるもの)、海辺のゴミ(マイクロプラスチックの原因となります)、もったいないゴミ(食品ロス)。そして最大の問題、あと20年で日本の最終処理場がいっぱいになってしまうそうです。
 このゴミ問題を解決するために、まずはゴミを減らすこと。そして4種類に分けて捨てること。
 ①燃えるゴミ(可燃ゴミ) ②燃えないゴミ(不燃ゴミ) ③リサイクル資源 ④その他のゴミ 
 今となっては常識ですが、この4種類に分けることで、清掃員の安全をも守っている事にもなるのです。他にもゴミ袋の口をしっかり閉める、たったこれだけで、ゴミが舞うこともなくなります。ゴミを出す側の意識を変えるには、現状と対策を知ってもらうことが大切です。ゴミの問題は日本だけでおさまるものではありません。地球規模で問題に取り組むためにも、みんなで一緒にゴミについて考えてみましょう。
 さらに詳しく知りたい読者のためには、同じ著者による 『ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本』(太田出版)がお勧めです。50問クイズ式で子どもだけでなく大人も楽しく読んで、しっかり学べる工夫がされています。(澤頭)

 

 


『カピバラがやってきた』

アルフレド·ソデルギット/さく あみのまきこ/やく 岩崎書店 1,650円

 安全で気持ちのいい川辺で、のんびりと暮らしていたニワトリ達の前に、ある日、毛深くて図体の大きな野生のカピバラ達がやってきました。ニワトリ達は「困ります!帰ってください」と言いますが、カピバラ達には家に帰れない訳がありました。違う種類の動物が一緒に暮らしていけるのでしょうか?
 この絵本は、言葉を最小限に抑え、絵で読みとることで何が起きているのか伝わるようになっています。特に、カピバラの子どもとヒヨコが出会うシーンや最後のページには字がありません。絵をよく見ながらぺージをめくっていくと細かな発見があります
 この作品は、スペインの出版社から刊行されたウルグアイの作家よる絵本です。翻訳家の宇野和美さんは、国際子ども図書館の講演「スペインと中南米の子どもの本―この100年の変遷と今―」の中で、注目する作品として同作を「もとからいた人たちのところへ移民が入ってくる物語として世界の状況をなぞらえているとも読める作品」と評しています。(大阪国際児童文学振興財団 公式チャンネル IICL新刊子どもの本ここがオススメ!!<30の中で紹介されています。元の講演の配信は終了しています。https://www.youtube.com/watch?v=YO7ZtpIxtyw(藤田)

 


『宇宙食になったサバ缶』

小坂康之/著 別司芳子/著 早川世詩男/装画·挿絵 小学館 1,650円

 八戸市民にも馴染みの深いサバ。このサバの缶詰を宇宙食として完成させ、無事宇宙に送り届けた福井県立若狭高校の生徒たちと、それを支えた大人たちの奮闘の記録。
 もともとサバの缶詰は小浜水産高校の実習として何十年も前から作られていたものだった。2001年に赴任してきた小坂先生は、そこに「ハサップ(HACCP)」という衛生基準の認証を得ることを目標として提案する。そこから、宇宙食を作れるのではないかという生徒の声を受けて、さまざまな試行錯誤を繰り返しながら宇宙食を完成させた。当然、宇宙食には、安全性や粘性、重量など多くの課題がある。その課題にぶつかるたびに、生徒たちが自分たちで考え、語り合う姿に、学ぶことの楽しさがあふれている。
 野口宇宙飛行士の紹介がきっかけとなり、興味をもった全国の小学生との探求の輪も広がった。そしてまた、宇宙開発も新たな計画が始まっている。夢に向かって挑戦し、研究を重ねて課題をクリアしていく楽しさを伝え、そして宇宙への憧れをかき立ててくれる一冊である。さらに詳しく知りたい読者には、中学生以上を対象とした、『さばの缶づめ、宇宙へいく』(小坂康之・林公代 著 イースト・プレス)がおすすめ。(常田)

 


『しごとへの道 1』

鈴木のりたけ/作 ブロンズ新社 1,430円

 『しごとへの道』は第62回小学館児童出版文化賞を受賞した『しごとば 東京スカイツリー』などの「しごとば」全6巻から派生した新シリーズです。パン職人、新幹線運転士、研究者を子ども時代から丁寧に取材し、現在に至るまでの軌跡をコミック仕立てで描いています。1話目に登場するパン職人の本行さんは、著者の鈴木さんの家の近所にあるパン屋さんです。パン教室を開く母の元、誕生日はケーキではなくレーズンパン1斤!パンが大好きだから迷わずパン職人に……と想像してページを追っていくと、全く違う紆余曲折した人生に驚きます。2話目の新幹線運転士の四方さんは『しごとば』からの再登場です。高校まで野球漬けの日々を送り、先生に進められて鉄道会社へ就職。その後も勉強を続けて見事、新幹線運転士に合格しました。3話目の松田さんは中学校で不登校になりながらも東京大学大学院で博士号の学位を取り「共感覚」の研究をしています。その研究中にうつ病になり、全てを諦めてしまいそうにもなりました……
 さらに現在執筆中の『しごとへの道②』では獣医師、ヴァイオリニスト、地域おこし協力隊の3人が登場予定だそうです。当事者の目線のみで語られたリアルな仕事への道。小学生はもちろん、将来に悩む学生から日々忙しく過ごす大人まで、すべての人にお勧めです。(山上)

 


 

人としぜんとのつながり

 

『きみの町にもきっといる。となりのホンドギツネ』

渡邉智之/写真・文 文一総合出版 1,980円

 実はこんな近くに、ずっとむかしからいるホンドギツネ。ごんぎつね、狐の嫁入りに、キツネに化かされた話の数々。私たちはとても身近にキツネを感じています。でも実際のキツネの生活様式や、そもそも種名であるホンドギツネという名前も、なじみのない人が多いのではないでしょうか。人間たちのすぐそばで暮らす野生動物「キツネ」 のお父さんお母さん5匹の子供たちの一年。人間の落としたもので遊んだり、食べものを捕る練習をしたり。命のつながりや、生きること美しさや試練がえがかれます。
 著者である渡邉智之さんは、ホンドギツネを10年追い続け、この『となりのホンドギツネ』の出版に至ったそうです。ホンドギツネ単独の写真集としても日本で初めての出版になります。いつもの景色も、ひっそりとキツネと寄り添って暮らしているのですね。(後村)

 


 

『リパの庭づくり』

福井さとこ/作・絵 のら書店 1,650円

 リパは腕のいい庭師です。春のある日、花の好きなリシュカおばあさんを訪ねると、庭は荒れ放題。ツタに覆われた薄暗い家にはリシュカおばあさんが閉じこもっていました。愛猫マリーが行方不明になり、気落ちしてすっかり元気がなくなってしまっていたのです。
 そこでリパは、人間の言葉を話すともだちの野鳥のシコールと一緒に、ハチやクモやテントウムシなど、生きものたちの力を借りて、庭を生き返らせていきます。まずは家を覆っているツタを切り窓から光が入るようにしました。それから外に出て土づくりを始めました。そして球根やお花の植え替えをします。
 少しずつ庭がよみがっていくにつれ、おばあさんもだんだん元気になっていきました。そして、最後にはうれしいサプライズも……
 命あふれる庭が生きかえっていく様子を描いた、シルクスクリーンによる美しい物語絵本です。
 著者の福井さと子は京都の大学を卒業後にスロヴァキアのブラチスラヴァ美術大学に留学、ドゥシャン・カーライ氏に版画と挿絵を学びました。学生だった2016年と2017年に、「スロヴァキアの最も美しい本賞・学生賞」を2年連続で受賞しています。現在は日本で活躍中。この本は2021年にポプラ社から出版された『カティとつくりかけの家』に次ぐ、日本での二作目になります。(円子)

 


『ウマと話すための7つのひみつ』

河田桟/文と絵 偕成社 1,430円

 この絵本は、ウマと話すための7つのひみつが具体的に書かれています。例えば、馬は体の動きで今の気持ちを伝える時、「気になるにおいをかいだときには、もっとたくさんかごうとして、へんな顔になる」とか、「あまえたい時にはブフフフフと低いこもった声を出す」と言ったことが紹介されています。
 馬と暮らすために2009年に与那国島へ移住し、長い時間をかけて馬との距離を縮めていった著者の河田さんの文には、馬と話したい思いがつまっているように思えます。
 この本を読んだからといってすぐにウマ語が理解できるわけではありません。ウマと話せるようになるためには、とても時間がかかるのです。でも、ウマを見るとなんだかうれしくなってにこにこ笑って、いつまでもずっと楽しく見ていられるような子であれば、いつの日かきっと馬語の半分くらいはわかるようになるでしょう。
 東京新聞(2023年1月16日)の河田桟さんの連載「馬の話をきいてみよう」で、「ひょっとしたら、この広い世界には、私と同じように馬と話してみたい子どもがいるかもしれないと思いました」と同作を手がけるきっかけが語られています。(藤田)

 


『のはらくらぶのこどもたち 新装版』

たかどのほうこ/作 理論社 1,430円

 野原の好きなのはらおばさんは、野原を散歩しながら、草花の話をする、のはらクラブを開くことにしました。当日、のはらおばさんがのんちゃんを連れて、約束の場所へ行くと、すずちゃん、カーラちゃん、こんちゃん、みいちゃん、わこちゃん、もこちゃん、めいちゃんの七人の女子が集まっていました。
 みんなは、歩きながら、出会う草花について、例えばスズメノカタビラは穂の様子が着物の襟元に似ていることから名づけられたという由来を話したり、ふきの葉っぱをかぶって踊ったり、牛のしっぺいという草でたたきあったりして、遊びます。そして、昼ごはんの時、それぞれのお弁当から、子どもたちが、ある動物かもしれないと推察されます。どんな動物かは、みんなが家に帰るときに明かされます。
 1巻から4巻まであり、春、夏、秋、冬の野原の草花のリアルな自然観察です。が、実は動物の子どもたちとの野原散策なわけで、著者得意のファンタジー世界も満喫できます。著者自身が描いたイラストは、黄緑、黄色、空色、黒の4色刷りです。絵本から一人読みへ移行する時期の低学年におすすめです。(畠舘)

 


『だいどころのたね』

久保秀一/写真 大久保茂徳/監修 ひさかたチャイルド 1,430円

 小さな種の中に宿る、命の逞しさを取り上げているのが、このだいどころのたねである。この本は私達に身近な台所にも様々な種がある事を教えてくれる。米やゴマ等も非加熱であれば発芽する物あり、土にまかれた種はやがて芽を出し開花、結実し、また種を作る。このようにして命をつないで行く。
 本書と同じ「ふしぎにタッチ」シリーズでは『やさいは いきているという本も出版されており、写真も豊富で、幼児から大人まで一緒に楽しめる内容だ。例えば野菜の切れはしを、水を張った器にのせる。数日後には、グングン成長していくたくましい野菜たちを見る事ができる。小さな切れ端になっても、生きている野菜たちを、思わず応援したくなる。
 野菜だけではない。八戸市の対泉院には、大賀ハスという古代ハスが育ち、毎年8月頃美しい花を咲かせる。このハスは大賀一郎氏が1951年、千葉県の2000年前の泥層から発見したわずか3粒の種を蘇らせた花だ。人々の尽力により発芽し、一部が八戸の寺に贈られた。発掘に必要な資金を援助してくれた知人社長への御礼だった。
 種は、永い時をも飛び越えるタイムカプセルのようだ。再び芽を出せる日を待っている。そう、台所の種は生きている。 (細越)

 


『けなげな野菜図鑑』

稲垣栄洋/監修 ヒダカナオト/絵 アマナNATURE&SCIENCE /編 エクスナレッジ 1,650円

 トマトは野菜? 果物? この何気ない疑問が、実は「トマト裁判」にまで発展したというエピソードなど、みなさんが知っている身近な野菜の蘊蓄をかわいいイラストとともに紹介する図鑑になりました。一般の植物図鑑とは違い、野菜限定でその特徴やこれまで進化した過程をおもしろく、また興味を引くように、5章に分けて紹介されています。
 ピーマンは未熟なうちに食べられて子どもに嫌われます。熟すと赤くなり苦みもとれ甘くなるのに、わざわざ嫌われてしまうとは。トマトは実が赤すぎて昔は鑑賞用でした。こんなに強烈に赤いのは毒があるからに違いないという事で食べてもらえなかったのでした。もやしは実はもやしっ子じゃありません。栄養がギュッと詰まっていて頼りになる野菜なのです。この他、野菜の栄養やおいしい選び方、保存の仕方までわかるすぐれものの一冊。野菜たちの知られざるエピソードを暴露(?)されることで、不思議と愛着がわいてくる図鑑となっています。ぜひ食卓で子どもたちと一緒に野菜について話してみませんか? この本をきっかけに苦手な野菜にも興味をもってもらえることまちがいなしです。著者は植物学の専門家。同じイラストレーターと組んだ『子どもと楽しむ草花のひみつ』(エクスナレッジ、2019年)も出版されています。(澤頭)

 


『うに とげとげいきものきたむらさきうにのひみつ 海のナンジャコリャーズ 3』

吾妻行雄/文 青木優和/文 畑中富美子/絵 仮説社 1,980円

 『われから』、『わかめ』に続く「海のナンジャコリャーズ」第3弾。今回は、生物としての生態だけでなく、ウニの育つ環境と人とのつながりが重要なテーマです。2011311日、東日本の各地を襲った津波は、地上だけでなく海底にも大きな被害を与えました。豊かな漁場だった三陸の海底を覆っていた藻場は根こそぎ剥ぎ取られ、多くの魚介類が姿を消したのです。しかし、餌として海藻を食べる生物が減ったことで、翌年、海藻はこれまでになく繁茂。海の回復力を示しました。ところが、さらにその翌年、ウニが海底に戻ってくると、それまでにない勢いで海藻を食べ尽くしてしまいました。ウニの繁殖の仕組み、体の構造、食事の様子など、拡大し詳細に描かれた姿はほとんどモンスター。増えすぎたウニを人間が食べることで生態系のバランスを取り戻そうとする三陸の漁師の試みは、私たちも生態系の一部であることを思い出させてくれます。
 著者の吾妻行雄さんはウニ類の研究者、このシリーズ全体に関わっている青木優和さんは海藻と動物の関係を追求する海洋生態学者。どちらも東北大学の研究者です。東北大学の海洋研究所は青森県浅虫にもあります。ぜひ、この一冊が東北の海の豊かさに目を向ける機会になれば、と思います。(戸田山)

 


『おいしい魚ずかん』

上田勝彦/監修 WILLこども知育研究所/編 アクアマリンふくしま/協力 金の星社 1,870円

 あるランキングで、家族が喜ぶ料理は過去20年、焼き肉ではなく寿司が1位だとか。島国ニッポンは魚から縁が切れることはないでしょう。けれども実際には、回転寿司やさんでいただく寿司のネタや家庭で食する魚の切身や刺身など、元の形を見ることが少ないかと思います。この本では、魚屋さんやスーパーで手に入るものを掲載。素晴らしい細密なイラストは、まるで写真のようです。どこで獲れる、何をエサに、主な料理、ひとくちメモなど、情報を絞っているので飽きずに読めます。巻末に簡単な魚料理が掲載されているので親子一緒に楽しみながら作ってみるのもお勧めします。この本を監修した上田勝彦さんは大学在学中から漁師として働き、研究を続けてきました。水産庁を経て講演やテレビ、雑誌などでも取り上げられ活躍。大人向けの魚の料理本(『ウエカツの目からウロコの魚料理』『旬の魚カレンダー』など)もあるので、こちらも参考に。(北城)

 

 


『レイチェル·カーソン物語 なぜ鳥は、なかなくなったの?』

ステファニー·ロス·シソン/文·絵 上遠恵子/監修 おおつかのりこ/訳 西村書店 1,815円

 このところ、とみに自然災害のニュースを耳にすることが増えてきたように思えます。大雨、干ばつ、大地震などの報道に心痛めます。アメリカの科学者レイチェル・カーソン(19071964年)が気づいたのは天災ではなく人災。化学薬品による環境汚染です。人間によって作られた殺虫剤は虫だけでなく自然の中の多くの生き物を死に追いやる恐ろしい薬品だということ。食物連鎖です。レイチェルは「人間が原因の災害」に歯止めをかけるべく立ち上がり、著書『沈黙の春』(1962年)で現状を訴えたのです。アメリカ大統領も注目しレイチェルは議会での説明の機会を得ました。人々は「人間の行いが自然環境とそこでともにくらす生きものたちの生活をかえてしまうことがある」ことを知ります。新しい法律ができ危険な薬品の使用が禁止されることとなりました。本文中、食物連鎖がどんなものか説明されている絵では、順を追って生きものの状態がわかるようになっており、単純明快で、子どもたちもとても理解しやすいと思います。さらに環境保護のために行動する日、422日アースデイのあらましをお話してあげることもよいかと思います。(北城)


『生ゴミからエネルギーをつくろう!』

多田千佳/ぶん 米林宏昌/え 農文協 1,540円

 著者の多田千佳さんは東北大学大学院准教授で、メタン発酵の研究者です。
 東日本大震災時、避難先で「幸い水も米もあるからご飯を炊こう。」と提案したところ、「電気がないのに、どうやって炊くんですか?」と言われたのだそうです。多田先生は火を使うことのない現代の子供たちの実態を知りました。
 生ごみやふん尿の有機物を利用してエネルギーを作ることは、決して新たな取り組みではない様ですが、震災を機にそれが身近であることの重要性について考えるようになったそうです。自分で出した生ごみで、簡単にエネルギーのメタンを作り、そのガスの火を使うことができる方法は実現でき持続も可能。それがこの「生ごみからエネルギーをつくろう!」です。
 身近なのに身近じゃなかったエネルギー問題はもう待ったなしです。(後村)

 

 


『気になるコレクション のぞく図鑑 穴』

宮田珠己/編・著 小学館 1,265円

 穴を見つけたら中に何があるのか気になりますよね。小さな穴があればのぞいてみたくなるし、巨大な穴なら怖くなってはなれたくなります。自然にできた穴と人工的な穴と合わせて、そんないろいろな穴を紹介した本です。
 自然な穴の中ではまず大地や海にあいた巨大が紹介されます。例えば、カリブ海の「グレートブルーホール」。神秘的で吸い込まれそうに美しい鍾乳洞のコーナーでは岩手県の安家洞や龍泉洞も紹介されています。人工的な穴の中には、世界一のトンネルや東京の複雑な地下鉄、マンホールなども。さらに中でも日本で唯一海面下を採掘している露天掘りの石灰岩鉱山である海抜-170mの八戸キャニオンも紹介されています。世界の鉱山跡には、三ツ星ホテルや観覧車がある遊園地まであるのだとか。身近な日常の生活でも硬貨や食べ物から、遠い宇宙のブラックホールまで、この世界は実はあちこち穴だらけなのです。最後に穴埋め問題もあっておもしろい。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」この本でその穴たちをのぞき、謎を明らかにしてみよう。
 気になるコレクションシリーズの「押す図鑑 ボタン」も凹凸コンビでおすすめです。(関下)


 

 

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