『ふたりのえびす』(髙森美由紀さん著)編集者 フレーベル館・本庄玲子さんからのコメント

八戸えんぶりを通して子どもたちの成長を描く『ふたりのえびす』が令和4年1月に刊行されました。著者は三戸町在住作家・髙森美由紀さんで、えんぶりの練習から本番までのようすが、生き生きとした南部弁のことばとともに描かれている物語です。

この作品は、髙森さんのデビュー作『いっしょにアんべ!』から編集を手掛けられている、フレーベル館の本庄玲子さんが担当されていらっしゃいます。『いっしょにアんべ!』、『ケンガイにっ!』から連なる”南部三部作”ができるまでのことや、『ふたりのえびす』の制作秘話などをお伺いしました。作品とあわせてご覧ください。

 

 

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--デビュー作から担当されるなかで、髙森作品の魅力はどんなところにあると感じますか?

第15回ちゅうでん児童文学賞大賞受賞作「咲くんだ また」の原稿を読ませていただいたとき、行間から匂い立つ作者の思いが感じられました。いい作家さんになるだろうなと思った瞬間です。髙森さんは、クラスで浮いているけれど、心にいろいろな葛藤のある少年を描くのがうまいです。ヒリヒリする気持ちをちゃかしながら、まじめに考えるのが髙森作品のキャラクター。それに物語の中に南部弁が出てくるのはとても魅力的ですね。

 

--”南部三部作”とする構想はどの時期からあったのでしょうか?また、これまでの2作を経て、3作目となる『ふたりのえびす』は髙森さんにどのように(テーマなど)オファーをしたのでしょうか?

デビュー作の『いっしょにアんべ!』(「咲くんだ また」改題)は、震災で孤児になってしまった有田が東京近郊のノボルの家にやってきて物語が始まるのですが、有田の南部弁にノボルがとまどいながらもコミュニケーションしていきます。2作目(『ケンガイにっ!』)は逆で東京近郊に暮らす俊が南部地域に住む祖母の家に夏の間預けられ、まわりから南部弁で話され、とまどいます。しゃべり言葉がすんなり入ってこないからこそ、推察したり、直接聞いたり、相手の話を理解しようという姿勢が見えるように思いました。どちらの作品もとてもいい物語です。2作、南部弁キャラクターが続いたので、3作目もぜひ南部弁キャラクターを出して、南部三部作にしましょう、とお願いしました。実はその後の作品(『助っ人マスター』)には、南部弁キャラクターはまったく出てきません。それからもずっと待ち続け、4年後に『ふたりのえびす』の初稿をいただきました。

 

--『ふたりのえびす』制作にあたって苦労したことなど、「制作秘話」となるようなエピソードがあったら教えてください。

この作品の初稿をいただいたのが2020年2月15日。それから、改稿のやりとりをくり返したのですが、想像していなかったのは新型コロナウィルスの影響でした。学校の生活様式も変わっていきました。机を並べてグループで給食を食べる風景はなくなり、個々にだまって食べなくてはいけないと聞いています。初稿時では、太一のクラスの調理実習や給食シーンの描写はみんなでわいわいにぎやかにおしゃべりしている、コロナ前の風景でした。今の子どもたちが読んだときに違和感をもたないようにこれらのシーンを改稿することにしました。感染対策とはいわずに、おしゃべりしてはいけないことを不自然なく改稿できたと思います。

 

--”南部三部作”はそれぞれ表紙、挿絵のイラストも印象的です。『ふたりのえびす』は児童書初挑戦となる太田麻衣子さんがイラストを手掛けられていますが、太田さんへのオファーを決めた理由はどんなことでしょうか?また、太田さんがイラストを制作するにあたってこだわっていたことなどがあれば教えてください。

装丁家の城所 潤さんとイラストレーターを決める際、おたがいに案を出し合うのですが、城所さんから提案いただいた太田麻衣子さんの力強くもほのぼのした感じは、これまでの2作とも通じるテイストがあると思いました。3人で打ち合わせをしまして、カバー絵は、春を呼ぶお祭りなのでおめでたい感じにしよう、と決まりました。太田さんからイメージ以上の素晴らしい絵をいただきました。おめでたさが感じられるようにと、太田さんは色校正でも色調の細部までこだわって、修正してくださいました。最終的にイメージに近い色調に上がったのではないかと思っております。

 

--「ここに注目して読んでもらいたい」ということなど、『ふたりのえびす』の魅力を教えてください。

自ら作りあげたキャラにしがみつく太一、他人から作られたキャラを捨てることにした優希。正反対の考え方のふたりがえびす舞の練習をしながらぶつかり合い、自分を見つめ直していく。誰の目も気にせずに、一生懸命になれることは素敵だと感じてもらえるとうれしいですね。

作品を読み終わったあとに、もう一度カバー絵をご覧ください。ラストのふたりのえびす舞の余韻が楽しめるのではないかと思います。また、カバーを外した表紙と目次の絵のしかけにも気づいていただけたら。

 

 

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◆書誌情報


「ふたりのえびす」

著者:髙森美由紀 
発行:フレーベル館
定価:1,540円(税込)
刊行日:令和4年1月
ISBN:978-4-577-05029-3

https://www.froebel-kan.co.jp/book/detail/9784577050293/

 

 

 

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