「山のふもとのブレイクタイム」編集者 中央公論新社・山本美里さんからのコメント
三戸町在住作家・髙森美由紀さんの著書「山の上のランチタイム」は中央公論新社としては初の髙森作品の刊行で、新作「山のふもとのブレイクタイム」も含め、編集を手掛けられたのは中央公論新社の山本美里さんです。
2021年本屋大賞を受賞した町田その子さんの「52ヘルツのクジラたち」など、手掛けた作品が話題作となっている山本さんですが、あたらしい作家さんを発掘して編集を手掛けられることも多いそうです。そんな山本さんに髙森作品との出会いや、制作の裏話などをお伺いしました。
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——山本さんと髙森作品との出会いについて教えてください。
髙森美由紀さんの作品を初めて手に取ったのは、『おひさまジャム果風堂』(産業編集センター)でした。打ち合わせの前に時間があったので近くの書店さんで何か面白そうな本がないか探していたところ、平積みされていたのを見つけました。それが他の本に比べて減っていたので、「読んでみないと!」と思ったのが、髙森作品を知るきっかけです。
——髙森作品の魅力はどんなところにあると感じますか?
出会いは『おひさまジャム果風堂』でしたが、その後『ジャパン・ディグニティ』、そして『みさと町立図書館分館』とどんどん上手くなっていることに驚かされました。何気ない描写にほろっと涙が出るような、あたたかい物語運びが魅力だと感じています。
——前作「山の上のランチタイム」は、髙森作品としては中央公論新社さんから刊行される初の作品でしたが、どのように髙森さんにオファーをされたのでしょうか。また、このシリーズを通して注目してもらいたい、髙森さんの文章・表現テクニックなどはありますか?
髙森さんの作品を読んでいると、素敵な物語というのは実は日常にたくさんあるのかな、ということを感じます。登場人物が等身大で親しみやすいため、そんな彼らがどうなるかが気になり、ページをめくる原動力になります。
また、髙森さんの地元である青森をはじめとする東北地方の描写――方言、人柄、お料理が描けるのは、強い武器だと思います。ですので新作をオファーした時は、「地元」「お料理」を絡めた物語をお願いしました。
——「山の上のランチタイム」刊行時はどのような反響がありましたか?
初速が予想より良くて驚きました。また、面陳してくれる書店さんも多かったと聞いています。なにより、地元の青森県内での書店さんでの応援が有難かったです。とくに八戸ブックセンターさんでのイベント――作中料理の再現や読書会などで、読者の方から直接作品の感想を聞くことができたのが印象的でした。
——今作「山のふもとのブレイクタイム」の制作はどのように進んでいきましたか?
今作は、初めにいただいた原稿と、完成稿では全く構成も内容も変わっています。シェフの登磨視点で描くことは決まっていましたし、それについては唯一変わりませんでしたが、当初は2話構成で、登磨の幼いころからの成長を順番に辿っていました。悪くはなかったのですが、そのままだと料理要素が少なく、また前作『山の上のランチタイム』との違いも大きくなってしまうことから、1冊目の構成に合わせる形で修正してもらいました。それにともない、今作で登場する主要登場人物も、名前から変更になっています。
——「山のふもとのブレイクタイム」で注目してもらいたいエピソードなどはありますか?
前作『山の上のランチタイム』では、視点人物である美玖を通して、飄々としてつかみづらいイケメンシェフとして描かれたいた登磨。彼は自らを「天才」と断言し、何があっても変わらない人物でした。しかし今作では、その自信家にある揺らぎが生じてきます。それは何か? また前作から続く美玖の登磨に寄せる片思いの行方は? ここに注目してほしいです。
——最後にひとことお願いいたします!
今作は、単独でも面白いですが、前作『山の上のランチタイム』を読んでいると二倍楽しめると思います。
また、マメイケダさんの装画も非常においしそうなので、帯をめくって、カバー全体を見てもらえたらと思います。
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◆書誌情報
「山のふもとのブレイクタイム」
著者:髙森美由紀
発行:中央公論新社
定価:1,760円(税込)
刊行日:令和3年9月21日
ISBN:978-4-12-005465-5
https://www.chuko.co.jp/tanko/2021/09/005465.html
参考
【パワープッシュ作家】髙森美由紀 〜「山のふもとのブレイクタイム」「柊先生の小さなキッチン 〜雨のち晴れの林檎コンポート〜」 https://8book.jp/bookcenter/4677/